2019年07月05日

あがりこ型樹形のコナラをナラ枯れから守る!


先日、只見町黒沢などにおいてコナラなどのあがりこ型樹形の巨木を対象に、ナラ枯れ被害の防除作業を行いました。

ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシが媒介するナラ菌によってナラ類、シイ・カシ類が集団枯損する被害のことです。

枯死したコナラ
▲枯死したコナラ

只見町では、2011年よりナラ枯れの被害分布と被害量調査を継続して実施しています。新潟県から六十里越、八十里越を通して只見地域に侵入したナラ枯れは、只見川流域を下り、また、伊南川流域を遡り、被害が拡大しました。2015年までに被害は過去最低になり被害が終息するかと思われましたが、2016年には一転して被害が爆発的に増大しました(詳しくは、ブナセンター紀要No.7の石川ら(2019)をご参照ください)。
さらに、只見地域では被害の中心がコナラであることが特徴となっており、ブナセンターでは、特に、全国的にも珍しいあがりこ型樹形のコナラの巨木をナラ枯れから守る活動を定期的に行っています。

「あがりこ」とは、一般には、東北地方の多雪地帯を中心に見られる人為的に作られたブナの独特の樹形を指します。その樹形は、幹の地上2〜3mのところで主幹を欠き、その部分は幹が瘤状に肥大し太くなり、さらにそこから多くの幹が発生しています。こうしたあがりこの成り立ちは、雪上伐採により地上部の幹を利用しつつも、個体(株)を維持し、さらに伐採部分から発生する萌芽幹を繰り返し利用したことによります。生産、伐採された幹(材)は薪として利用されます。つまり、現在、私たちが見ることができるあがりこ型樹形の樹木は、人間による過去の森林利用の歴史をあらわしたものであるといえます(人間が関わらないあがりこ型樹形もあります。その紹介はまたの機会に譲ることとします)。ちなみに、只見地域では「あがりこ」とは呼ばず、「もぎっき」などと呼ばれます。

只見地域には、薪材生産を目的とした雪上伐採の結果形成されたあがりこ型樹形のブナが存在することはもちろんですが、あがりこ型樹形コナラの巨木も存在しています。これが全国的にも珍しいものなのですが、ナラ類ということで例に漏れずナラ枯れの被害を受けています。このコナラを保全する(ナラ枯れから防除する)ために、ブナセンターでは継続的に幹への殺菌剤の注入を行っています。その作業順は、開葉時期である5〜6月に、@樹木の周囲をナタ等で刈り払う、A胸高直径を測定し、ナンバーテープで個体を識別し、B幹部にドリルで穴を開け、Cその穴に高濃度少量注入殺菌剤を注入する、となります。

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ナラにドリルで穴を開け、爪楊枝を挿している様子
▲ナラの樹にドリルで穴を開け、目印になる爪楊枝を挿している様子

今年は、80本ほどのあがりこ型樹形コナラの巨木に処理を行いました。残念ながら殺菌剤注入を行っても、枯れてしまう個体が出てきてしまいますが、引き続き、ブナセンターでは人間の森林利用の歴史や技術を伝えるこのあがりこの保全に取り組んで行きます。

posted by ブナ at 16:19| Comment(0) | 定点観測

「河野昭一先生企画展」開催記念講演会 只見のブナ原生林は世界の宝

ただみ・ブナと川のミュージアムにおいて開催中の特別展「植物学者・河野昭一の世界−その生涯と只見」を記念し、講演会を開催しました。ブナセンターの初代館長であった河野昭一先生は、2016年10月にその生涯を閉じられました。講演会では、只見町での河野先生の活動を振り返り、この地域への貢献を慰労し顕彰する会として企画したものです。菅家町長の挨拶のあと、講演会と座談会を行いました。

開会の挨拶をする菅家町長
▲開会の挨拶をする菅家町長

【講演会】植物学者・河野昭一先生がブナ林に残した足跡
講師:北村系子 氏(森林総合研究所北海道支所主任研究員)

講師の北村系子氏
▲講師の北村系子氏

 河野先生が指揮した只見町の「ブナ林総合学術調査」(2002〜2004年)に参加された北村系子氏に河野先生のブナに関する研究活動についてお話しいただきました。北村氏は30年ほど前から河野先生にブナ林の研究指導を受け、日本のブナをはじめ、北米のアメリカブナ、韓国のタケシマブナなどの調査を一緒にされました。河野先生は北海道大学での学生時代に舘脇操教授のもとでブナ林の調査方法を学ばれました。それは、森の中にベルト状に調査区を設置し、その中の全ての植物を調べるというベルトトランセクトという調査法でした。河野先生はこのやり方を踏襲し、アメリカブナの調査では10m×100mの調査区内に出現する芽生え、若木、大木など全てのブナについて大きさや位置を丹念に記録しました。

 また、河野先生は、生物多様性という視点から、ブナ林内の遺伝子の多様性も調査されました。芽生え集団では保有する遺伝子は多く、成熟個体集団では少なくなることを明らかにしました。ほかにも変わった樹形のブナやブナ林に興味を持たれ、その遺伝的背景に関心を持っておられたということです。

 只見町のブナについては、このような世界的にみて非常に雪の多い地域に生育する植物は他にはないということで河野先生は貴重だと考えられていました。河野先生は只見町においてもベルトトランセクトによるブナ林調査を実施しています。広面積のブナ林や渓畔林、二次林といった様々なブナ林を調査し、小面積の林でも遺伝子の多様性が高いこと、あるいは林分に特有の遺伝子があることなど、只見町のブナの遺伝子の多様性について科学的に明らかにされました。参加者は、河野先生の植物学者としての姿勢を改めて知ることができました。

北村氏の公園を熱心に聴講する参加者の様子
▲北村氏の講演を熱心に聴講する参加者の様子

【座談会】河野先生の思い出
司会:紙谷智彦(只見町ブナセンター館長)、鈴木和次郎 氏(元只見町ブナセンター館長)、中岡 茂 氏(只見ユネスコエコパーク推進専門監)、新 国 勇 氏(只見の自然に学ぶ会代表)、北村系子氏

 第2部では、河野先生に縁のある方々をお招きし、河野先生との思い出を語っていただく座談会を行いました。中岡 茂氏はもと林野庁職員で、河野先生からは国有林事業に関してしばしば厳しい言葉を受けたこともありました。それでも林野庁の現役時代に緑の回廊計画を創設するなど自然保護運動には一定の理解をしていたと話されました。鈴木和次郎氏は、第2回世界ブナサミットでユビソヤナギの講演をしたのが、只見町での河野先生との関わりの最初でした。河野先生がブナセンターを退いてからは、館長として尽力されました。新国 勇氏は、河野先生の只見町での活動に常に関わってこられました。今回の座談会のために大量の貴重な資料を提供されました。北村系子氏は河野先生のブナ林調査に同行され、第1回世界ブナサミットでは基調講演をされました。司会の紙谷ブナセンター館長は、30年ほど前に河野先生からの依頼で立山のブナ林衰退の共同研究で同行したのが出会いでした。 

河野先生との思い出を語る関係者

河野先生との思い出を語る関係者
▲河野先生との思い出を語る関係者

 座談会では、河野先生の動画や新聞記事、写真を見ながら、只見町での活動を経年的に振り返りました。2002年に日本野鳥の会南会津支部(現・南会津連合)は、当時のブナ原生林保護運動の一貫として河野先生へお声掛けをし、只見町での最初の講演会の開催に至りました。新国さんからはこれが縁で河野先生と只見町との関わりが始まったことが語られました。河野先生はこの講演会で「南会津のブナは地球規模の財産」と言われ、様々な機会を通して奥会津のブナ林の価値を世界に向けて発信して下さいました。その後の活動も時系列に沿って座談会の参加者が解説されました。2007年の只見町ブナセンターの発足が今日の基礎となりました。河野先生が最後に只見町を訪れたのは南方熊楠賞を受賞された翌年の2012年でした。木ノ根沢のブナ林で観察会が開催され、只見のブナ林の中での河野先生と参加者の交流の様子や記念撮影した写真が座談会会場の画面に大きく映し出され当時を偲びました。

 閉会にあたって齋藤修一センター長より、ご参加いただいた方々への感謝とこの日の学びを只見やそれぞれの故郷に活かしていただきたいとの結びの言葉がありました。会場には約60名の方々にお越しいただき、今日の只見ユネスコエコパークへと繋がった河野先生の功績に感謝し、只見町での活動を振り返りました。

閉会の挨拶をする齋藤センター長
▲閉会の挨拶をする齋藤センター長

posted by ブナ at 10:30| Comment(0) | イベント

2019年06月07日

6月30日(日)「河野昭一先生企画展」開催記念講演会のご案内

現在、只見町ブナセンターの附属施設 ただみ・ブナと川のミュージアムでは、特別企画展「植物学者 河野昭一の世界 その生涯と只見」を開催しています。この企画展に関連して、2019年6月30日(日)に「河野昭一先生企画展」開催記念講演会 只見のブナ原生林は世界の宝 を、季の郷湯ら里 コンベンションホール「ゆきつばき」にて催します。

本講演会では、河野先生と深い縁があった関係者をお招きして、講演や座談会、自然観察会を開催します。
講演や座談会では、河野氏のこれまでの業績を評価し、その活動や人柄について紹介していただきます。

詳しい内容につきましては、下記のURLより只見町ブナセンターのホームページをご覧ください。
http://www.tadami-buna.jp/event.html#kouen

なお、自然観察会につきましては、事前申し込みが必要です。
ぜひ皆様お誘い合わせのうえ、お越しください。

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posted by ブナ at 09:31| Comment(0) | ブナセンター講座

2019年05月06日

只見四名山 要害山

要害山の標高は705mあり、JR只見駅の後方に位置します。
今の時期に登山道沿いに見られる花について紹介します。

要害山の頂上への道は、旧只見スキー場跡地からの「南尾根登山道」、滝神社の裏からの「宮ノ沢登山道」、北尾根の作業道があります。
今回紹介するのは南尾根登山道、宮ノ沢登山道です。

登り始めの低木林では、ユキツバキ、タムシバなどの花が咲いていました。ミヤマナラをはじめとする低木の開葉が進んでいたので、だんだんと山一帯が緑に覆われていっています。

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ユキツバキ
花弁の赤色、花糸の黄色、葉の緑色がきれい

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タムシバ
大きく白い花は遠くから見ても目立つ
只見では町の花として親しまれています。

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オオカメノキ
中央の両性花を囲うように装飾花がつく

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マルバマンサク
花の中央から吹き戻しを吹いたように四方に細長い花弁が広がる

低木林を抜けると、キタゴヨウマツ林の下にはイワカガミなどの山野草が見られました。

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イワカガミ
同じ場所に蕾の個体もあったので、もうしばらくは花を見られそうです。

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イワウチワ
まとまって咲く姿に壮観さを感じる

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イワナシ
良く見ていないと見落とすが、可憐な佇まいをしている

山頂直下から頂上にかけてのブナの開葉はほとんど完了し、きれいな新緑に包まれていました。足元には去年落ちた堅果から発芽したブナがいくつも見られました。

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ブナの実生

頂上から南尾根に少し下るとキタゴヨウマツの林床にアズマシャクナゲが広がります。
花、蕾ともにあまり見られなかったので、花の着きが良くないのかもしれません。

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アズマシャクナゲ

今週の日曜日には、只見四名山の1つ目として要害山の山開きがあります。是非この機会に只見の山を登り、只見の自然に触れていただければと思います。







posted by ブナ at 11:21| Comment(0) | 山歩き

2019年04月30日

自然観察会「新緑のブナ林を歩く」

4月29日(月)に布沢にある癒しの森で、春の自然観察会を実施しました。

この日は天気が良く、午前9時頃の時点で気温が15度もありました。
癒しの森駐車場で集合し、準備運動や観察会の注意事項などを確認すると、さっそく癒しの森の中に入っていきました。
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癒しの森にはまだ雪が残っておりましたが、木々の根本にはぽっかりと雪がない「ネアキ」と呼ばれる隙間があります。幹周りの雪が早く解ける主な理由は諸説ありますが、どんなに暖かくなっても雪の表面温度が0℃で保たれるのに対して、幹の表面は日差しを吸収して温度が上昇しやすいため、雪面と大きな温度差が生じることが一つの理由と考えられています。うっかりこの隙間に足を滑らせてしまうと危険な場合があります。

下の写真の右側の木の根に見られるのがネアキです。
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ブナ林が見えてきたところで、ブナの樹の特徴を説明しました。

ブナは日本列島の冷温帯落葉広葉樹林を構成する代表的な樹種であり、日本海側の多雪地域を中心に分布しています。ブナの結実は、基本的には隔年結実で、5−7年に一度豊作年があります(昨年の只見は豊作年にあたりました)。また、積雪は、ブナの堅果をげっ歯類からの捕食から守ったり、乾燥から防いでくれるなど、ブナの「更新」(自然に落下した種子から樹木が成長すること)に役立っています。

ブナの生育にとって雪は非常に重要な要素であるといえます。
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癒しの森を歩いていると、鳥の鳴き声がよく聞こえてきます。
この日は、ドラミングと呼ばれるキツツキ類が木をつつく音や、イカルの鳴き声が聞こえてきました。

「国界の大ブナ」と呼ばれる交流広場に到着しました。
こちらは、大ブナが倒れたことにより、空を見上げると、空間がぽっかりあいているのがわかります。その結果、ブナによって遮られていた日差しが地面にまで降り注ぎ、タラノキなどの陽樹が新たに生育していました。一本の樹の動向が森の様々な動植物に影響を与えることで、森自体が日々変化しているのだと気付かされます。
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「青春広場」に着きました。只見町出身のお客様の中には、子どものときによくここまで遊びに来たという方もいらっしゃいました。この青春広場では、ブナの「二次林」(一度伐採された後に再生した林)が見渡せます。これらのブナをよく観察すると、同じ時期に更新したにも関わらず、高さにばらつきがあるのがわかります。
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林床にはエゾユズリハやヒメアオキなどのいわゆる日本海要素と呼ばれる常緑低木が生育しています。これら常緑の植物が厳しい冬を越せるのは、やはり積雪が冬季の低温や乾燥から守ってくれているからと考えられます。
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ようやく、「大岐 戸坂山 眺め」までたどり着くことができました。ここで待ちに待ったお昼休憩です。
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帰り道は、タムシバという白い花を咲かせる樹木や、只見では地肌がざらざらしていることから「ジサガラ」と呼ばれるケアブラチャンの良い香りを楽しみながら、みなさんで記念写真を撮りました。
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天気も良く、とても気持ちの良い観察会になりました。
ぜひまたご参加していただければ幸いです。

posted by ブナ at 12:06| Comment(0) | イベント