2023年05月06日

4/30 新緑のブナ林観察会

2023年4月30日、癒しの森にて恒例の新緑のブナ林観察会を実施しました。午前中は雨が降っていたものの、午後にはやみ、歩きやすい天気の中での観察会となりました。今回は通常の歩道が枯死したナラの大木で危険な状態になっていたため、迂回路を進んで目的のブナの森に向かいました。

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▲枯死したナラ類の高木
迂回路と通常の歩道の合流地点付近のナラ類の枯死木です。只見町では数年間前から、カシノナガキクイムシによるナラ枯れが増えており、このルートのナラ類も2〜3年前から被害木が目立ってきていました。

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▲人の手があまり入っていないブナ林
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▲伐採後に自然再生したブナ二次林
癒しの森ではあまり人の手が入っていない原生林に近い自然林と、伐採後に再生した二次林の両方を観察することができます。伐採後に再生した二次林では、太いブナが見当たらず一様に揃った大きさであることが特徴です。

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折り返し地点に到着。雄大な景色を眺めつつ、休憩です。

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▲オオイワウチワ
折り返し地点で見られたオオイワウチワです。ブナ林の林床や岩混じりの尾根で見られます。


道中では様々な動物も見られました。雨天後の観察会であったためか、湿った環境を好むものとよく出会うことができました。

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▲タゴガエル
タゴガエルは、ニホンアマガエルと並び、只見の森林でもっとも普通に見られるカエルで、涼しくて湿った林床では、昼間でもよく見られます。この日は午前中に雨が降っていたため、特に活発になっていたようです。繫殖は5月の上旬から始まり、湧水や伏流水中で行われます。閉鎖空間で繁殖をするため、鳴き声は聞こえども姿は見えないカエルとして時折話題になります。

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▲陸生のホタル類
生涯を通して陸上で生活する陸生ホタルの仲間です。日本には約50種のホタルが生息していますが、このうち幼虫期を水中で過ごす水生ホタルはゲンジボタルとヘイケボタルを含む3種のみです。日本は水生ホタルの種数が多い国で、世界的に見ても陸生ホタルの方が圧倒的多数派なのです。陸貝類の他、小型のミミズなどの土壌動物を捕食すると考えられています。

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▲ヤスデの仲間
キノコなどの菌類や落ち葉を食べる土壌動物です。森林内の倒木や樹木の根元でよく見られます。危険を感じると写真のように丸くなり毒性のある防御物質を分泌、悪臭を放ちます。人にはさほど害はないものの、直接手を触れないほうがいいでしょう。

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ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。本観察会は毎年恒例の観察会ですので、興味を持たれた方は是非ご参加ください。リピーターの方も大歓迎です。
posted by ブナ at 13:01| イベント

4/29 春の花観察会活動報告

2023年4月29日、深沢集落近くの森林で春の花観察会を実施しました。毎年恒例の観察会ですが、今回は初夏を思わせる天気の中での観察会となりました。

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▲サシバ
観察地の森に入る前に田植え前の水田に接した林縁で採餌しているサシバに遭遇しました。里山を好む猛禽類で、主にカエルやヘビを捕食します。この個体も緑色のカエルを食べていました。恐らく付近の水田で鳴いていたシュレーゲルアオガエルだと思われます。

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▲ナラ類の二次林
スギ林に挟まれた林道を進み、しばらくするとナラ類の二次林が見えてきました。まだ樹木の葉が芽吹いておらず、日光が遮られることなく地上に届いています。春植物は、高木が開葉するまで間、融雪後の明るい林床で葉を広げ、開花します。やがて、木々が芽吹き、春植物は光合成が困難になると地上部は枯れ、栄養を蓄えた地下部は来春まで長い休眠に入ります。この森では、カタクリ、キクザキイチゲ、コシノコバイモが花を咲かせていました。

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▲左からカタクリ。キクザキイチゲ、コシノコバイモ

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▲ブナ二次林
さらに奥に進むと開葉が進んだブナの二次林に辿り着きました。新緑が美しい一方、林床に春植物の姿は見当たりません。ブナはナラ類と比べて芽吹きが早いため、林床に直射日光が入る期間も短くなります。そのため、春植物の生育には適さないのです。

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▲ブナの実生
林内ではブナの実生が多数見つかりました。館長の勧めで双葉を食べてみることに。若干の青臭さはあるものの、味はナッツ類に似ています。種子が双葉になったことがわかります。ブナの種子や実生は、糖質、脂質、タンパク質のバランスが良く、森に棲むノネズミやツキノワグマなどの哺乳類にとって貴重な食料となります。

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▲ツキノワグマの糞
近くで冬眠明けのツキノワグマの糞が見つかりました。ブナ種子の殻が未消化のまま排出されており、冬眠前に大量のブナ種子を食べていたのだと思われます。

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春植物以外にも様々な動植物に出会うことができました。ご参加いただいた皆様、お疲れさまでした。
posted by ブナ at 12:45| イベント

2023年05月05日

5月5日(金)野鳥観察会(石伏地区)開催報告

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 2023年5月5日(金)、石伏地区において全5回の2回目となる「春から初夏の野鳥観察会」を開催しました。大学生サークル「緋熊と黒潮」のメンバーなど8名の参加がありました。晴れて気温は25℃まで上がり、日差しが強く感じられました。
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▲開催地・石伏地区の景観

 石伏地区は只見ダムの周辺地域です。只見湖の広大な開放水面と、周囲の雪食地形に富んだ山々、山腹の混交林や山裾のスギ人工林、そして国道252号線に沿った集落と小規模な農耕地という、多様な環境を含んでいます。そのため、比較的多くの種が観察できると予想していました。
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 集合場所の石伏公園から、まずは鳥の声聞きでスタートしました。ウグイスやホオジロに加え、サンショウクイやオオルリなど夏鳥のさえずりが賑やかで、中でもセンダイムシクイの「焼酎一杯、グイー」と聞きなされるさえずりは、特徴的なためか参加者にも聞き取りやすかったようです。
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▲セグロセキレイ

 集落周辺では、餌を咥えたセグロセキレイの親鳥が見られました。おそらく近くに巣があり、大人数の我々が親鳥を警戒させてしまったのでしょう。観察後、速やかにその場を離れました。
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▲ニュウナイスズメ(右が雄・左が雌)

 前回の叶津地区に引き続き、今回石伏地区でもニュウナイスズメが確認されました。スズメとは一味違うレンガ色の雄の姿が目を惹きました。
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 一旦石伏公園に戻ってから万代橋を渡り、只見湖の水鳥を観察しました。コガモやキンクロハジロ、カワウ、イソシギなどの水鳥が見られました。続いて、只見湖右岸の道路沿いを探鳥しました。
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▲オオアカゲラ(雄)

 只見湖右岸ではオオアカゲラが2度出現しました。只見町を繁殖地とする大型のキツツキで、春から秋にかけて森林に生息します。最新の福島県版レッドリストでは準絶滅危惧に選定されています。警戒心の強いオオアカゲラが、観察会の場で見られたのは幸運でした。
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▲クロサンショウウオの卵塊とヤマアカガエルの幼生

 鳥類の他にも様々な生き物が観察できます。例えば両生類で、道路傍の側溝を除くと、クロサンショウウオの真っ白な卵塊や、ヤマアカガエルの幼生が無数に見られました。
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▲ハンミョウ

 「道教え」とも呼ばれる、極彩色の美しい甲虫です。主にアリを捕食します。
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 湖畔のスギ林内にある旧若宮八幡神社にも足を運びました。林内では、ユキツバキの藪で餌を探すヤマガラが見られ、ヤブサメの「シシシシシ…」という独特のさえずりも聞かれました。
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 境内の奥にはクリの大木があります。とてもクリとは思えない風変わりな姿を見ることができます。
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▲キビタキ(雄)

 人気の高い夏鳥のキビタキも境内で観察することができました。黒、黄、白のコントラストが非常に美しく、皆様も喜ばれたようでした。

▼今回の野鳥観察会で確認された種のリスト
(クリックすると別ウィンドウで開きます)

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 今回の野鳥観察会では、合計34種が確認されました。昨年より開催してきた「春から初夏の野鳥観察会」の各回を比較すると、最も多くの種数となりました。これは、様々な環境を包含する石伏地区の特性が反映されたためと考えられます。また、視野の広さや晴天という気象条件も関係したと思われます。
 また、多様な種のさえずりが聞かれ、オオアカゲラやキビタキのような美しい種も目視できたことで、ご満足いただけた回になったようです。ご参加下さった皆様、ありがとうございました。
posted by ブナ at 16:45| 自然観察会

2023年04月23日

4月23日(日)野鳥観察会(叶津地区)開催報告

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 2023年4月23日(日)、叶津地区において全5回の初回となる「春から初夏の野鳥観察会」を開催しました。只見町民や県内在住の親子など8名の参加がありました。天候は晴れで、気温は約13℃、ひんやりとした風が吹く爽やかな陽気に恵まれました。

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▲開催地・叶津地区の景観

 叶津地区は只見川の支流である叶津川が谷あいを流れ、水田や小規模な集落が点在しています。遠目には、分厚い残雪で白く光る浅草岳の山頂部が見え隠れし、雪食地形が卓越した山麓部も眺望できる、美しい景観が広がっています。

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▲オシドリ(左が雌、右が雄)

 まず水辺の鳥で目を惹いたのがオシドリです。只見町で繁殖するオシドリは、この時季つがいで行動しています。警戒心が強く、人が不用意に近づいて飛ばしてしまうことが多いのですが、写真のつがいは遠くの水路の傍で我々の様子を伺っており、じっくりと観察することができました。その他、叶津川本流ではコガモの群れやイソシギ、セグロセキレイなどが確認されました。

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▲ニュウナイスズメ(左が雄、右が雌)

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▲ニュウナイスズメの雄
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▲ニュウナイスズメの雌

 叶津地区の集落ではニュウナイスズメが多く見られます。ニュウナイスズメは寒冷地で繁殖するスズメで、頬にスズメのような黒斑がないのが特徴です。町内でも生息する集落は限られており、珍しい鳥と言えます。

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▲ハシボソガラスに追われるサシバ

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▲キタゴヨウにとまるサシバ

 只見町における夏鳥のワシタカ類の中で、最もふつうに見られる種がサシバです。サシバは餌場となる水田と営巣地となる林がセットになった環境を好み、健全な里山環境のシンボルとして知られています。叶津地区では複数のつがいの繁殖が確認されており、今回も探索コースの道すがら、少なくとも5個体が見られ、さらには交尾まで観察することができました。

 その他、夏鳥ではサンショウクイやオオルリのさえずりが聞かれ、ツバメとイワツバメが飛び交う光景も見られました。

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▲アズマイチゲ
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▲キクザキイチゲ
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▲オトメエンゴサク

 また、野鳥とは別に春植物も観察できました。アズマイチゲは葉の縁の切れ込みが浅く、キクザキイチゲは深く切れ込んでいます。また、キクザキイチゲは花色の変化に富み、青色のタイプもよく見られます。

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▲ゼンマイ

 ゼンマイの若芽も出てきていました。只見町ではこの綿毛が、手毬の芯の素材などに利用されてきた歴史があります。

▼今回の野鳥観察会で確認された種のリスト
(クリックすると別ウィンドウで開きます)
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 今回の野鳥観察会では、合計26種の野鳥が確認されました。只見町を繁殖地とするオシドリやウグイス、海を越えて渡ってくるサシバやサンショウクイなどの夏鳥が確認され、にぎやかな季節の到来を実感できる観察会になりました。
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
posted by ブナ at 18:30| 自然観察会

2023年04月21日

講座「ブナ林を研究するおもしろさ」

企画展「雪国のブナを極める」では、多くの研究者による半世紀にわたるブナ林研究の成果をもとに解説しています。監修をして頂いた中静 透先生に、本講座の講師をお願いしました。中静先生はブナ林生態研究の先駆者であり、第一人者でもあります。自然のブナ林がギャップ更新と呼ばれる仕組みで世代交代を行っていることを40年以上前に明らかにされ、その後も多くの若手研究者とともに森林の生態研究を続けてこられました。本講座では、「ブナ林を研究するおもしろさ」と題して、エピソードを交えてお話し頂きます。
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posted by ブナ at 13:57| イベント