2024年02月19日

令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会活動報告


 1月28日(日)、令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会が只見公民館で開催され、町の助成を受けて調査研究を行った5グループの研究者がその成果を発表しました。町内外から43名(うち町民32名)の聴講者が集まり、発表後は、活発な質疑応答も行われました。各調査研究の概要を下記にご紹介します

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満員御礼の会場の様子



「モザイク植生は動物進化のゆりかご:只見町の陸産貝類を例として」
石井 康人(東北大学理学部)


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・調査研究の背景と目的
 只見地域にはアイヅマイマイとよばれる右巻きのカタツムリが生息することが知られていますが、これまでほとんど研究がなされておらず、近縁な種や由来などが明らかにされていませんでした。また、只見町にどのようなカタツムリの仲間(ナメクジなどを含む)が生息しているのかもあまり調査されていませんでした。そこで、本研究では只見町に生息するカタツムリの種類を調査するとともに、アイヅマイマイの進化的起源について調べました。

・わかったこと
 本調査で約10種のカタツムリが確認されました。このうち、ハナタテヤマナメクジとオオコウラナメクジの2種は、福島県西部で初記録でした。
 ほかの地域では確認されていないナメクジが確認されたことから、只見町は独自のカタツムリの種構成を有することが示唆されました考えられます。特に、オオコウラナメクジは全国的にも希少な種であることから、貴重な記録です。
 遺伝子解析の結果、アイヅマイマイは福島県東部ではなく、新潟県の集団に近縁であることがわかりました。さらに詳細な遺伝子解析の結果から右巻きが左巻きから出現した年代は現在の日本列島が形成される以前の約3500万年前と推定されました。


『只見町のどこに・どのような魚がいるのか?』を環境DNAで読み解く」
深野 直孝、村上 弘章、片山 知史(東北大院農)、春本 宜範 (アクアマリンふくしま)


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・調査研究の背景と目的
 土壌や河川などの環境中には、そこに生息する生物のフンや体液などに由来するDNA(生物の設計図)が存在しています。これを環境DNAといいます。環境DNAを調べることで、その場所にどのような生物が生息しているかを知ることができます。
 只見町の魚類を保全するには、どこにどのような種が分布しているのか、正確に把握する必要があります。これを明らかにするために、本研究では、只見川と伊南川、その支流(田子倉湖より上流は除く)で環境DNA調査を行いました。

・わかったこと
 全24地点から35種の魚類のDNAが検出されました。また、支流よりも本流で検出種数が多い傾向がありました。検出された地点はイワナ属が最多で、調査を行った全地点で検出されました。イワナ属は只見町を代表する魚種であり、今後、より詳しい分布や生態研究の必要があると思われます。
また、オオクチバスやブルーギルといった国外外来種が検出されませんでしたがなかった一方、日本の他の地域から移入した種は13種で全体の約半数と多く、これ以上国内移入種を増やさない努力が必要です。一方で、、ホトケドジョウ、キタドジョウ、アカザといった希少種が多く検出されました。


「只見町指定天然記念物アカミノアブラチャンの遺伝的特徴と増殖方法」
森口喜成、數間るび(新潟大学)


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・調査研究の背景と目的
 アブラチャンは緑の果実をつけるクロモジ属の落葉低木ですが、只見では赤い果実をつけるアカミノアブラチャンが発見され、町の天然記念物に指定されています。本研究では、アカミノアブラチャンの遺伝的特徴の解明と増殖方法の検討を目的としました。

・わかったこと
 アカミノアブラチャンの増殖方法について、6月と7月に挿し木と取り木の二種類の方法を検討しました。挿し木処理では、発根させるための環境を整えることに多大な労力を要し、増殖方法として現実的でないと考えました。取り木処理では、枝を環状剥皮後、十分に湿らせた赤玉土あるいは水苔で包み、ビニール袋で密閉した後、アルミホイルで覆って固定しました。この方法では、ほぼ全てでカルスの形成が見られ、6月に処理された枝の全てで発根しました。
 唱平の4株(天然記念物指定)とふるさと館田子倉の横庭の4株の合計8株のアカミノアブラチャンのクローンチェックを行いました。その結果、8株とも異なる遺伝子を示しました。今後は、アカミノアブラチャンの遺伝的特徴をさらに明らかにしていきたいと考えます。


「只見町における一般家庭の薪エネルギー活用の経済効果とCO2削減効果の評価」     
大橋 慎太郎(新潟大学農学部)


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・調査研究の背景と目的
 只見町では豊富な森林資源を背景に間伐材を薪エネルギーとして公共施設に活用することで、森林整備と資源の地産地消を同時に進めることが計画されています。本調査では、只見町の一般家庭における薪材の調達方法および薪の年間消費量を調べ、持続的な森林資源活用の可能性と化石燃料代替によるCO2削減への貢献について評価しました。

・わかったこと
 町民の方の情報提供による只見町の薪ストーブの利用世帯97戸のうち63戸で聞き取り調査を行いました。その結果、薪材調達方法は、購入による調達が53%、自己調達が47%でした。すべての薪ストーブ利用者は、自身で薪割作業を行っていました。また、自己調達のうち伐採から行う人が30でした。ストーブの種類は、鋳物が約65%、鋼板が35%でした。薪材樹種は、約67%の世帯が広葉樹、約33%が針葉樹を主に使用していました。薪の年間利用量は家の大きさやストーブの種類などの条件で大きく変わりますが、最大約19㎥、最小約2㎥、平均約7.5㎥でした。
 97戸での薪利用量を推定すると、668㎥/年となり、これを灯油で代替した場合、年間118kL(ドラム缶591本分)と推定できました。これをもとに経済効果やCO2排出抑制効果を試算しました。また、薪ストーブを利用することによって、生活の質の向上につながる効果があることもわかりました。


「只見町の民具の使用木材種:非破壊的方法による樹種同定の試み」
鈴木 海都、土本 俊和、井田 秀行(信州大学)


・調査研究の背景と目的
 只見町には国指定重要文化財に指定されている民具のほか、指定外の民具が約九千点あり、これらの保存と利活用が課題となっています。従来の民具研究は、民俗学的な手法で地域の生活文化などを明らかにしてきました。本研究では新たなアプローチとして非破壊的な方法で民具に使用されている木材の樹種を特定し、民具の種類による樹種選択の違いやその理由を明らかにすることで、民具から見た樹木利用の伝統的知識を歴史生態学的な観点から体系的に整理しようと試みましたこれらにより文化財に指定されていない民具に新たな価値を見出すことができると考えました。

・わかったこと
 コウシキ77点、堅杵72点、横杵43点、カケヤ7点、ヒブセ48点の合計247点の民具の樹種を判別しました。これら樹木は、近辺の山林で入手できる種でした。また、民具の用途に適した樹木を選択していたこともわかりました。例えば、除雪に用いられるコウシキには柾目面が滑らかで曲げ強度が高いブナが9割以上用いられました。また、杵の頭には硬く摩耗に強いイタヤカエデが、柄には堅く強度のあるキハダが多く用いられていました。
 今後は破壊的な方法も併用する中で樹種判別精度を高めるとともに、民具を学校教育などの場でも幅広く活用できる可能性を探っていく予定です。
posted by ブナ at 11:59| 学術調査研究

2024年01月18日

発表要旨を公開!(1/28開催) 令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会

 1月15日〜16日と吹雪き、積雪が増えましたが、最大積雪深は56cmにとどまり、17日はよく晴れて気温も上がり、ぐんぐん雪がとけています。豪雪地帯の只見町としてはまだまだ雪の少ない状況が続いています。
 さて、令和6年1月28日(日)13時〜、只見公民館で開催する令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会の各発表の発表要旨をブナセンターHPで公開しました。どのような発表を聞くことができるかを事前にチェックできますので、皆様よろしければご覧ください。

http://www.tadami-buna.jp/event.html#tdmr5
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 令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究助成金により只見町に関する調査研究に取り組まれた研究者から今年度の成果について発表いただきます。参加事前申込不要・参加費無料ですのでぜひご参加ください。

■日時 令和6年1月28日(日)13時00分〜15時35分
■会場 只見公民館集会室
    (〒968-0421 福島県南会津郡只見町只見宮前1390)
■プログラム
13:10〜「モザイク植生は動物進化のゆりかご:只見町の陸産貝類を例として」:石井 康人(東北大学理学部)

13:35〜「『只見町のどこに・どのような魚がいるのか?』を環境DNAで読み解く」:深野 直孝、村上 弘章、片山 知史(東北大院農)、春本 宜範 (アクアマリンふくしま)

14:05〜「只見町指定天然記念物アカミノアブラチャンの遺伝的特徴と増殖方法」:森口喜成、數間るび(新潟大学)

14:30〜「只見町における一般家庭の薪エネルギー活用の経済効果とCO2削減効果の評価」:大橋 慎太郎(新潟大学農学部)

15:00〜「只見町の民具の使用木材種:非破壊的方法による樹種同定の試み」:鈴木 海都、土本 俊和、井田 秀行(信州大学)
posted by ブナ at 11:34| 学術調査研究

2023年09月25日

地域の遺伝子を守る! 在来イワナの分布調査

 只見町の渓流魚の代表といえば、イワナです。この地域に本来生息していた在来のイワナはニッコウイワナとされますが、1970年代から内水面漁業の振興のために放流された養殖イワナと交雑が進み、残された在来イワナの生息河川は非常に限られ、絶滅寸前の状況にあります。在来種の遺伝子保全の観点から只見町の在来イワナの集団と生息河川を特定し、それらを適切に保護・保全する必要があります。そこで、DNAを指標として在来イワナの生息河川を特定するための調査を実施しています。調査方法は、イワナを釣り上げ、イワナには申し訳ないですが脂鰭(アブラビレ)だけサンプリングさせてもらい、このサンプルをDNA解析するというものです。只見町の河川は非常にたくさんあることから(名称がある河川だけでも800以上!)、サンプリングには地元漁協さんや住民の方などにご協力をいただいております。地球の長い年月が生み出した遺伝子という宝を将来に引き継ぎたいと思いますし、それが実現できることは只見町のさらなる魅力にもつながると考えています。

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posted by ブナ at 00:00| 学術調査研究