2023年09月17日

9月16日(土)「仲秋のトンボ観察会」開催報告

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 2023年9月16日(土)、黒谷地区のビオトープにおいて「仲秋のトンボ観察会」を行いました。今回は、ただみ・ブナと川のミュージアムにて開催中の企画展「只見のトンボ」に関連した観察会です。本企画展を担当した指導員・太田が解説を務めました。

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 トンボと言えば秋のイメージがあるかもしれませんが、トンボの成虫が最も多く出現する(種数が最多となる)時期は夏で、只見町の場合7月下旬頃に種数のピークを迎えます(約55種)。このため、9月半ばはトンボの数が減ってきた時期に当たります(30種弱)。この時期は種数こそ夏には及ばないものの、秋に繁殖活動を行う種の観察には適しています。
 昆虫は気温条件に敏感で、春秋はわずかでも日が陰ると途端に姿を消してしまいますが、9月のこの時期であればまだ気温は下がり過ぎないので、少々日が陰っても観察に支障はありません。

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▲黒谷上野地内ビオトープ(池)

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▲黒谷上野地内ビオトープ(水路)

 観察地「黒谷上野地内ビオトープ」は、元々田んぼだったものをビオトープとして造成した土地で、ヒメガマなどの湿生植物が繁茂した約2,000uの池をメインに、山手には小さな砂礫が堆積した幅約50 cmほどの水路も隣接した環境です。
 観察会では池と水路それぞれにおいて、トンボの成虫と幼虫(ヤゴ)を網で捕ったり、双眼鏡で見るなどして観察した上で、環境とそこで暮らすトンボの違いを解説しました。さらに、トンボと同所的に見られるその他の水生生物についても触れ、水生生物の多様性について理解を深めていただけるよう努めました。

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▲観察会で撮影されたトンボ(成虫)

 まずはトンボの成虫です。池と水路を合わせて15種の成虫が見られました。オオルリボシヤンマは池の優占種で、20個体近い雄が池の上を飛び回って、雌を探したり雄を排斥する様子が見られました。オオルリボシヤンマは寒冷地性のヤンマで、東北地方の止水では普遍的に見られますが、暑さには弱く、この日も11時を過ぎる頃には数が減っていました。
 また、キトンボは翅の基部まで橙色に色づくアカトンボで、最も秋遅くまで活動する種です。この日は早くも2個体の雄が池のヒメガマ上で占有行動をとっており、繁殖活動のスタートを知ることができました。
 ルリボシヤンマやアカトンボの仲間はこのように秋に繁殖活動を行い、水辺を華やかに彩ります。

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▲福島県では珍しいコノシメトンボ

 この日一番の大物がコノシメトンボでした。アカトンボの一種で、翅の端の褐色斑と、雄では全身が赤くなるのが特徴です。開放的な止水に生息し、西日本では学校プールで繁殖するような適応力の高い種ですが、福島県を含む東北地方では局地的な分布を示し、観察困難な種の一つに数えられます。この日は幸運にも池の沖の方で雄が1個体見つかり、約 30 m を隔てた遠距離ではありましたが、双眼鏡で観察することができました。

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 続いては水網を持って池に入り、トンボの幼虫をはじめとした水生生物を探しました。いわゆる「ガサガサ」です。

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▲観察会で採集された水生生物(池)

 池では種不明(属止まり)を含む5種のトンボの幼虫が採集されました。特にルリボシヤンマ属(おそらくオオルリボシヤンマ)の幼虫が多く、次いで春に成虫が現れるコサナエの幼虫も複数採集されました。これら2種は成長に最低でも2年を要するため、池が枯れることなく通年水を湛えていることが必須条件となります。
 その他の水生生物も多様でした。池にフサモなどの水草が繁茂していることから、水草を餌として利用するガムシの仲間(ガムシ、コガムシ、ヒラタガムシ類)が多く見られました。肉食性の種としては、ゲンゴロウの仲間(クロゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、コツブゲンゴロウ)や、カメムシ目(ミズカマキリ、マツモムシ)などが採集されました。小さな甲虫ではコガシラミズムシも複数見られました。また、魚類ではドジョウ、両生類ではトノサマガエル、貝類ではマルタニシが確認されました。こうした生物多様性の背景として、天敵となる大型の外来生物が生息していないことが挙げられます。もしここにコイやウシガエル、アメリカザリガニのような侵略性の高い外来種が入ってしまえば、在来の水生生物はたちまち数を減らしてしまうでしょう。外来種の侵入阻止は水辺環境の生物多様性を守る上でたいへん重要です。

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▲観察会で採集された水生生物(水路)

 池の次は水路でのガサガサです。トンボの幼虫は2種が採集されました。ここではオニヤンマの幼虫が圧倒的に多く、場所によっては一掬いで5個体以上が網に入りました。オニヤンマは細く緩やかな流れに生息し、幼虫は砂泥底に潜り込んで生活します。そのため、昔ながらの素掘りの水路はオニヤンマには好適な生息地だったのですが、圃場整備に伴う水路のコンクリート護岸化によって、今ではオニヤンマが棲めなくなってしまった水路が殆どであるように思われます。
 その他の水生生物も池とは異なる顔ぶれで、水生昆虫ではトビケラ目(ナガレトビケラ科やホソバトビケラの仲間)や、流水性のシマアメンボ、甲殻類ではサワガニ、両生類ではトウホクサンショウウオの幼生などが採集されました。いずれも流水や低水温を好む種です。

▼今回の観察会で確認されたトンボ目のリスト
(クリックすると別ウィンドウで開きます)
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 今回、黒谷上野地内ビオトープでは18種のトンボが確認されました。

 朝方を中心にオオルリボシヤンマが多数飛び交い、その他にもアオイトトンボやマユタテアカネ、キトンボなどの秋季性のトンボが確認されました。また、たも網によるガサガサではオニヤンマの幼虫が水路で多く採集されたほか、湿生植物の豊富な池では、ルリボシヤンマ属やコサナエなどの幼虫に加え、クロゲンゴロウやガムシ、ドジョウ、マルタニシなど多様な生物が採集されました。このように、水辺環境では流水/止水の区別のみならず、植生や水深、日照条件、天敵の有無、季節や時間帯など実に様々な要因によって、見られるトンボの種類相が変化します。

 今回は、池と水路という異なる2環境で、成虫と幼虫の両方を調べることにより、その違いの面白さを知っていただける観察会になったかと思います。ご参加下さった皆様、ありがとうございました。

タグ:自然 只見町
posted by ブナ at 16:51| トンボ