2024年06月18日

<「自然首都・只見」学術調査研究助成金事業の成果(山村における戦後から現在までの山菜や木の実の利用変遷に関する研究>

「自然首都・只見」学術調査研究助成金事業の助成を受けた東京学芸大学と森林総合研究所の研究グループにより行われた、只見町を事例にした戦後の山村における食用野生植物資源利用の変遷に関する調査研究に関する成果論文が日本森林学会誌にて発表となりました。論文は下記URLより閲覧可能です。

https://www.jstage.jst.go.jp/.../4/106_77/_article/-char/ja/

また、この論文は森林総合研究所のHPでもわかりやすく解説されています。

https://www.ffpri.affrc.go.jp/.../saiz.../2024/20240606.html

ぜひご覧ください。
posted by ブナ at 10:01| 論文

2024年02月21日

沼ノ平総合学術調査の研究成果論文が国際学術誌で発表されました

ご報告が大変遅くなってしまいましたが、2017年度から2020年度にかけて実施された沼ノ平総合学術調査ですが、
https://www.town.tadami.lg.jp/.../05/No627Page/Page4-8.pdf
昨年9月にその研究成果の一部である只見ユネスコエコパークの成熟ブナ林でゴミムシ群集を調べた論文が国際学術誌(Forest Ecology and Management誌)に発表されました。

成熟ブナ林での小規模撹乱や細流がオサムシ科甲虫群集に及ぼす影響
https://doi.org/10.1016/j.foreco.2023.121394
 
桜美林大学の大脇淳准教授を筆頭者に、新潟大学名誉教授の崎尾均先生、ゴミムシ研究者の森田誠司さん、只見町ブナセンターの共著です。
 
論文の概要は以下のとおりです。

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 沼ノ平は只見町の北西部に位置し、地すべり地帯にあり、長く人手の入っていない成熟ブナ林があります。ここでは、倒木や地すべりといった自然撹乱や湧水に由来する林内のごく小さな沢(細流)といった異なる環境があります。そこで、倒木ギャップ※や地すべりギャップ、細流によって作られたブナ林の異質な環境がゴミムシ群集に及ぼす影響を調べました。
 調査の結果、倒木ギャップはブナ林内と種構成がほぼ同じでしたが、地すべりギャップや細流ではそこに特異的な種が見られました。森林管理の効果は研究例が比較的ありますが、成熟ブナ林で自然撹乱や細流が生み出す小規模な異質性も昆虫の多様性を高めることを示した点が本研究の特徴です。
 天然林の管理では、自然撹乱とそれに対する生物の反応を知ることが必要ですが、本研究は生物多様性を考慮した天然林管理の現場でも活用できるものと考えられます。

※ギャップとは、森林の上部空間において樹木の枝葉が茂っている部分(ちなみに、これは林冠<りんかん>と言います)において、その部分を構成していた樹木が倒れるなどして隙間ができている状態を言います。倒木ギャップは林冠を構成していた樹木が老齢などで倒れてできたギャップ、地すべりギャップは地すべりによってできたギャップを指しています。ギャップからは森林の中に光が差し込むため、周囲の森林とは異なる光環境となり、そこに生育する植物の種類も異なってきます。
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只見の自然の豊かさが世界に発信されています。
さらに詳しくは下記の書類(PDF)をお読みいただければと思います。


posted by ブナ at 10:46| 論文

2023年09月14日

「自然首都・只見」学術調査助成金事業の成果(ヤナギ類とハリエンジュ(外来樹種)の生態に関する知見)

「自然首都・只見」学術調査助成金事業として新潟大学名誉教授の崎尾均先生らにより行われた、只見町を流れる伊南川のヤナギ類とハリエンジュの実生の耐水性と枝の栄養繁殖に関する論文が、保全生態学研究(科学論文雑誌)で公開されました(下記URLより閲覧可)。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/advpub/0/advpub_2225/_article/-char/ja

この論文では、以下について論じています。
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●シロヤナギとハリエンジュの当年生実生を用いて沈水と滞水実験を行い、沈水環境ではハリエンジュはわずか 4 日間で全て枯死したのに対して、シロヤナギの当年生実生は10 日以上生存していた。滞水環境では、シロヤナギの成長はほとんど影響を受けなかったのに対して、ハリエンジュの成長は大きく減少し、根粒の形成が大きく阻害された。
●ハリエンジュとヤナギ類など9樹種の挿し穂を用いて、水の中や土の中での発根やシュートの発生などを比較し、低木のヤナギ類やオノエヤナギ・シロヤナギは切り枝から発根やシュートの発生が生じたのに対して、ハリエンジュやユビソヤナギ・オオバヤナギからはほとんど発生しなかった。
●以上の結果から、ハリエンジュは沈水や滞水によって大きな影響を受けるとともに、枝による栄養繁殖を行う可能性が低いことが示唆された。
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 只見町を流れる伊南川は、希少樹種ユビソヤナギが生育する自然度の高い河川環境が残されている一方で、上流域に植栽された外来樹種のハリエンジュが下流域に分布を広げています。この論文の成果によれば、伊南川でハリエンジュの分布拡大を抑制するためには、洪水などの自然撹乱が維持された河川環境を維持することが重要になりそうです。

 また、ユビソヤナギの挿し穂はほとんど発根などしないという結果について、過去の伊南川流域の河川改修においてユビソヤナギの保全のために挿し穂による増殖を図った公共事業がありましたが、こうした方法での保全はできないということになります。ユビソヤナギは洪水などの自然撹乱に依存した世代交代をしており、ユビソヤナギの保護・保全のためにも自然撹乱が維持された河川環境を維持することが重要となります。


posted by ブナ at 11:57| 論文

2023年06月03日

只見町の古民家調査の成果が国際科学雑誌で発表

2015年から2021年にかけて、信州大学教育学部の井田秀行教授らが只見町の古民家に関する調査研究を進めておりました。この度、その調査研究の成果が、国際科学雑誌「Ecological Research誌」に発表されることとなりました。井田教授らには、古民家調査を通して只見町の自然と人との関わりを明らかにしていただき、論文発表はこれらの成果を国内外に発信いただく機会となっております。只見町ブナセンターとしても井田教授らの調査研究を支援して参りましたし、もちろん町民の方のご協力があってのことがこのような形に結びついたことは大変喜ばしいことと思っております。 オープンアクセスとなっており、どなたでも論文のPDFをダウンロードいただけます。よろしければご覧ください。
https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.12408

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論文のタイトル:
「Optimizing species selection for the structural timbers of traditional farmhouses in a snowy rural area of northeastern Japan(東北地方の豪雪農村地域における古民家の構造材の最適な樹種選択)」

著者:井田秀行・佐藤拓真・陸川雄太・阿部伶奈・梅干野成央・土本俊和

論文要旨:
地域の木材を利用して建てられた伝統民家には、森林資源の利用に関する情報が含まれている。本研究では、伝統農家建築(古民家)に木材がどのように利用されていたかを明らかにするため、豪雪地帯である只見町において、1845年から1940年頃までに建てられた11棟の古民家の部材の木材種を同定し、また、住民70世帯から聞き取りを行った。調査した2004部材(1棟あたり99–308部材)、合計材積171.2立方メートル(1828部材)からは、計14種が特定された。このうち、スギとキタゴヨウがそれぞれ材積で44%、39%を占めた。ブナは3番目に多く(7%)、屋根を支える扠首(サス)、梁、桁に用いられていた。聞き取り調査の結果、木材は距離1km以内の私有林や共有林から調達され、地元の職人によって伐採、搬出、運搬されていた。たびたび生じる雪崩によって特徴づけられる当該地域特有の複雑な植生を考慮すると、地域の高木やその林で、最も入手しやすい樹種はスギであり(ただし自生か植栽由来かは不明)、次に、集落周辺の山の尾根に自生するキタゴヨウであったと思われる。一方、十分な量の木材を供給できるブナ林は限られていたと考えられる。以上から、只見町では雪深い厳しい環境にもかかわらず、歴史的に地元で入手可能な高木が材木として選択されていたと結論づけられる。
posted by ブナ at 09:20| 論文