先日、只見町黒沢などにおいてコナラなどのあがりこ型樹形の巨木を対象に、ナラ枯れ被害の防除作業を行いました。
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシが媒介するナラ菌によってナラ類、シイ・カシ類が集団枯損する被害のことです。

▲枯死したコナラ
只見町では、2011年よりナラ枯れの被害分布と被害量調査を継続して実施しています。新潟県から六十里越、八十里越を通して只見地域に侵入したナラ枯れは、只見川流域を下り、また、伊南川流域を遡り、被害が拡大しました。2015年までに被害は過去最低になり被害が終息するかと思われましたが、2016年には一転して被害が爆発的に増大しました(詳しくは、ブナセンター紀要No.7の石川ら(2019)をご参照ください)。
さらに、只見地域では被害の中心がコナラであることが特徴となっており、ブナセンターでは、特に、全国的にも珍しいあがりこ型樹形のコナラの巨木をナラ枯れから守る活動を定期的に行っています。
「あがりこ」とは、一般には、東北地方の多雪地帯を中心に見られる人為的に作られたブナの独特の樹形を指します。その樹形は、幹の地上2〜3mのところで主幹を欠き、その部分は幹が瘤状に肥大し太くなり、さらにそこから多くの幹が発生しています。こうしたあがりこの成り立ちは、雪上伐採により地上部の幹を利用しつつも、個体(株)を維持し、さらに伐採部分から発生する萌芽幹を繰り返し利用したことによります。生産、伐採された幹(材)は薪として利用されます。つまり、現在、私たちが見ることができるあがりこ型樹形の樹木は、人間による過去の森林利用の歴史をあらわしたものであるといえます(人間が関わらないあがりこ型樹形もあります。その紹介はまたの機会に譲ることとします)。ちなみに、只見地域では「あがりこ」とは呼ばず、「もぎっき」などと呼ばれます。
只見地域には、薪材生産を目的とした雪上伐採の結果形成されたあがりこ型樹形のブナが存在することはもちろんですが、あがりこ型樹形コナラの巨木も存在しています。これが全国的にも珍しいものなのですが、ナラ類ということで例に漏れずナラ枯れの被害を受けています。このコナラを保全する(ナラ枯れから防除する)ために、ブナセンターでは継続的に幹への殺菌剤の注入を行っています。その作業順は、開葉時期である5〜6月に、@樹木の周囲をナタ等で刈り払う、A胸高直径を測定し、ナンバーテープで個体を識別し、B幹部にドリルで穴を開け、Cその穴に高濃度少量注入殺菌剤を注入する、となります。


▲ナラの樹にドリルで穴を開け、目印になる爪楊枝を挿している様子
今年は、80本ほどのあがりこ型樹形コナラの巨木に処理を行いました。残念ながら殺菌剤注入を行っても、枯れてしまう個体が出てきてしまいますが、引き続き、ブナセンターでは人間の森林利用の歴史や技術を伝えるこのあがりこの保全に取り組んで行きます。