2021年10月23日(土)、只見振興センター1階ホールにて、ブナセンター講座「ブナを利用する昆虫たち」を開催しました。本講座では、福島県内の昆虫相に詳しく、蛾類(特にヤママユガ科)の生態や水生昆虫類を専門とされる、三田村敏正氏(福島県農業総合センター浜地域研究所・専門研究員、只見ユネスコエコパーク支援委員会委員)を講師にお招きし、ブナ林に特徴的な昆虫や只見で記録のある冬虫夏草、最近国内で確認された外来昆虫のことまで幅広くお話いただきました。

▲講座の様子
はじめに、三田村氏はブナ科植物や針葉樹各種を食べる鱗翅目(チョウ目)の種数を比較し、ブナを利用する昆虫が他の樹種に比べて比較的少ないことを説明しました。そのため、ブナ林における昆虫相はしばしば単純化するとされます。一方で、ブナ林にはブナのみを食べる種やブナ林を主な生息環境とする種も存在し、三田村氏はその中から代表的な種を取り上げ、それらの生態について解説しました。只見町のブナ林において特徴的な種としては、カンスゲ類の葉を食べるヤスマツケシタマムシが挙げられます。奥会津地域では、カンスゲ類(ミヤマカンスゲやオクノカンスゲ)をヒロロと呼び、干した葉を縒って細長い縄にした後、カゴやミノなどの編み組み細工に使用します。ヤスマツケシタマムシは体長3〜4mmと小さいですが、ヒロロの葉を直線状に食べた痕が白い線として残るため、それが本種を探す手がかりになります。
次に、三田村氏は冬虫夏草という昆虫やクモから生えるキノコについて紹介しました。成熟したブナ林の中は暗く、地表部の湿度も高いため、冬虫夏草が生える環境として好適とされます。ブナ林が豊富にある只見町では冬虫夏草が多く、これまで30種近く記録されています。昆虫に寄生する冬虫夏草では、ハエ、カメムシおよび甲虫の幼虫、ハチ、トンボなどと幅広い分類群を宿主としており、色や形も様々です。中には新種と思われるものもあり、今後も詳しく調査すれば、さらに種数が増えると思われます。こうした冬虫夏草の豊富さは、宿主となる昆虫やクモ類の多様性の高さを反映していると言えます。
近年国内で確認された外来種の昆虫については、それらの生態や侵入・拡散の事例とあわせて解説していただきました。今年になって、福島県中通りで発見された外来カミキリムシ2種(ツヤハダゴマダラカミキリとサビイロクワカミキリ、以下カミキリ省略)が、メディアに取り上げられたことは記憶に新しいと思います。いずれも街路樹を食害し、ツヤハダゴマダラは主にトチノキ、サビイロクワはエンジュおよびイヌエンジュを食べることが分かりました。ツヤハダゴマダラは、在来のゴマダラカミキリと見た目がよく似ており、普通種であるゴマダラに見間違えられてきた可能性もあることで、発見が遅れたのかもしれません。これら2種の識別点は、ツヤハダゴマダラは、1)胸部の白い斑紋を欠くこと、2)上翅の前縁部がなめらかであることです。

▲外来種ツヤハダゴマダラカミキリと在来種ゴマダラカミキリの違いを説明する三田村氏
ツヤハダゴマダラとサビイロクワは、幼虫・成虫ともに樹木を食べるため、海外から輸入された何らかの樹木(木製のもの)に紛れこんでいたと思われますが、侵入ルートは定かではありません。植物防疫が万全に敷かれた状況であっても、外来種は思いもよらない抜け穴から侵入してきます。そのため、専門家の目をかいくぐって、知らぬ間に在来の生態系に定着しているのです。早期に発見・対策を講じるためには、その土地に住む方々の協力が重要であると、三田村氏は指摘します。常日頃から見ている自然の中で、見慣れない生きものを発見した際は、すぐに博物館施設や詳しい専門家に連絡することが、その後の迅速な対応につながります。

▲昆虫標本を鑑賞する参加者と解説する三田村氏
質疑応答の後、参加者は三田村氏が作成された標本を鑑賞しながら、昆虫トークに花を咲かせました。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
本講座の録画動画は、近日、ブナセンターYouTube公式チャンネル(URL:
https://www.youtube.com/channel/UCRfrLUp9Vx3CSs7yatZp-lg?view_as=subscriber)にて公開予定です。
動画を公開しましたら、改めてお知らせいたしますので、今しばらくお待ちください。