ご報告が大変遅くなってしまいましたが、2017年度から2020年度にかけて実施された沼ノ平総合学術調査ですが、
https://www.town.tadami.lg.jp/.../05/No627Page/Page4-8.pdf
昨年9月にその研究成果の一部である只見ユネスコエコパークの成熟ブナ林でゴミムシ群集を調べた論文が国際学術誌(Forest Ecology and Management誌)に発表されました。
成熟ブナ林での小規模撹乱や細流がオサムシ科甲虫群集に及ぼす影響
https://doi.org/10.1016/j.foreco.2023.121394
桜美林大学の大脇淳准教授を筆頭者に、新潟大学名誉教授の崎尾均先生、ゴミムシ研究者の森田誠司さん、只見町ブナセンターの共著です。
論文の概要は以下のとおりです。
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沼ノ平は只見町の北西部に位置し、地すべり地帯にあり、長く人手の入っていない成熟ブナ林があります。ここでは、倒木や地すべりといった自然撹乱や湧水に由来する林内のごく小さな沢(細流)といった異なる環境があります。そこで、倒木ギャップ※や地すべりギャップ、細流によって作られたブナ林の異質な環境がゴミムシ群集に及ぼす影響を調べました。
調査の結果、倒木ギャップはブナ林内と種構成がほぼ同じでしたが、地すべりギャップや細流ではそこに特異的な種が見られました。森林管理の効果は研究例が比較的ありますが、成熟ブナ林で自然撹乱や細流が生み出す小規模な異質性も昆虫の多様性を高めることを示した点が本研究の特徴です。
天然林の管理では、自然撹乱とそれに対する生物の反応を知ることが必要ですが、本研究は生物多様性を考慮した天然林管理の現場でも活用できるものと考えられます。
※ギャップとは、森林の上部空間において樹木の枝葉が茂っている部分(ちなみに、これは林冠<りんかん>と言います)において、その部分を構成していた樹木が倒れるなどして隙間ができている状態を言います。倒木ギャップは林冠を構成していた樹木が老齢などで倒れてできたギャップ、地すべりギャップは地すべりによってできたギャップを指しています。ギャップからは森林の中に光が差し込むため、周囲の森林とは異なる光環境となり、そこに生育する植物の種類も異なってきます。
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只見の自然の豊かさが世界に発信されています。
さらに詳しくは下記の書類(PDF)をお読みいただければと思います。
2024年02月21日
沼ノ平総合学術調査の研究成果論文が国際学術誌で発表されました
posted by ブナ at 10:46| 論文
2024年02月19日
令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会活動報告
1月28日(日)、令和5年度「自然首都・只見」学術調査研究成果発表会が只見公民館で開催され、町の助成を受けて調査研究を行った5グループの研究者がその成果を発表しました。町内外から43名(うち町民32名)の聴講者が集まり、発表後は、活発な質疑応答も行われました。各調査研究の概要を下記にご紹介します
「モザイク植生は動物進化のゆりかご:只見町の陸産貝類を例として」
石井 康人(東北大学理学部)
・調査研究の背景と目的
只見地域にはアイヅマイマイとよばれる右巻きのカタツムリが生息することが知られていますが、これまでほとんど研究がなされておらず、近縁な種や由来などが明らかにされていませんでした。また、只見町にどのようなカタツムリの仲間(ナメクジなどを含む)が生息しているのかもあまり調査されていませんでした。そこで、本研究では只見町に生息するカタツムリの種類を調査するとともに、アイヅマイマイの進化的起源について調べました。
・わかったこと
本調査で約10種のカタツムリが確認されました。このうち、ハナタテヤマナメクジとオオコウラナメクジの2種は、福島県西部で初記録でした。
ほかの地域では確認されていないナメクジが確認されたことから、只見町は独自のカタツムリの種構成を有することが示唆されました考えられます。特に、オオコウラナメクジは全国的にも希少な種であることから、貴重な記録です。
遺伝子解析の結果、アイヅマイマイは福島県東部ではなく、新潟県の集団に近縁であることがわかりました。さらに詳細な遺伝子解析の結果から右巻きが左巻きから出現した年代は現在の日本列島が形成される以前の約3500万年前と推定されました。
『只見町のどこに・どのような魚がいるのか?』を環境DNAで読み解く」
深野 直孝、村上 弘章、片山 知史(東北大院農)、春本 宜範 (アクアマリンふくしま)
・調査研究の背景と目的
土壌や河川などの環境中には、そこに生息する生物のフンや体液などに由来するDNA(生物の設計図)が存在しています。これを環境DNAといいます。環境DNAを調べることで、その場所にどのような生物が生息しているかを知ることができます。
只見町の魚類を保全するには、どこにどのような種が分布しているのか、正確に把握する必要があります。これを明らかにするために、本研究では、只見川と伊南川、その支流(田子倉湖より上流は除く)で環境DNA調査を行いました。
・わかったこと
全24地点から35種の魚類のDNAが検出されました。また、支流よりも本流で検出種数が多い傾向がありました。検出された地点はイワナ属が最多で、調査を行った全地点で検出されました。イワナ属は只見町を代表する魚種であり、今後、より詳しい分布や生態研究の必要があると思われます。
また、オオクチバスやブルーギルといった国外外来種が検出されませんでしたがなかった一方、日本の他の地域から移入した種は13種で全体の約半数と多く、これ以上国内移入種を増やさない努力が必要です。一方で、、ホトケドジョウ、キタドジョウ、アカザといった希少種が多く検出されました。
「只見町指定天然記念物アカミノアブラチャンの遺伝的特徴と増殖方法」
森口喜成、數間るび(新潟大学)
・調査研究の背景と目的
アブラチャンは緑の果実をつけるクロモジ属の落葉低木ですが、只見では赤い果実をつけるアカミノアブラチャンが発見され、町の天然記念物に指定されています。本研究では、アカミノアブラチャンの遺伝的特徴の解明と増殖方法の検討を目的としました。
・わかったこと
アカミノアブラチャンの増殖方法について、6月と7月に挿し木と取り木の二種類の方法を検討しました。挿し木処理では、発根させるための環境を整えることに多大な労力を要し、増殖方法として現実的でないと考えました。取り木処理では、枝を環状剥皮後、十分に湿らせた赤玉土あるいは水苔で包み、ビニール袋で密閉した後、アルミホイルで覆って固定しました。この方法では、ほぼ全てでカルスの形成が見られ、6月に処理された枝の全てで発根しました。
唱平の4株(天然記念物指定)とふるさと館田子倉の横庭の4株の合計8株のアカミノアブラチャンのクローンチェックを行いました。その結果、8株とも異なる遺伝子を示しました。今後は、アカミノアブラチャンの遺伝的特徴をさらに明らかにしていきたいと考えます。
「只見町における一般家庭の薪エネルギー活用の経済効果とCO2削減効果の評価」
大橋 慎太郎(新潟大学農学部)
・調査研究の背景と目的
只見町では豊富な森林資源を背景に間伐材を薪エネルギーとして公共施設に活用することで、森林整備と資源の地産地消を同時に進めることが計画されています。本調査では、只見町の一般家庭における薪材の調達方法および薪の年間消費量を調べ、持続的な森林資源活用の可能性と化石燃料代替によるCO2削減への貢献について評価しました。
・わかったこと
町民の方の情報提供による只見町の薪ストーブの利用世帯97戸のうち63戸で聞き取り調査を行いました。その結果、薪材調達方法は、購入による調達が53%、自己調達が47%でした。すべての薪ストーブ利用者は、自身で薪割作業を行っていました。また、自己調達のうち伐採から行う人が30でした。ストーブの種類は、鋳物が約65%、鋼板が35%でした。薪材樹種は、約67%の世帯が広葉樹、約33%が針葉樹を主に使用していました。薪の年間利用量は家の大きさやストーブの種類などの条件で大きく変わりますが、最大約19㎥、最小約2㎥、平均約7.5㎥でした。
97戸での薪利用量を推定すると、668㎥/年となり、これを灯油で代替した場合、年間118kL(ドラム缶591本分)と推定できました。これをもとに経済効果やCO2排出抑制効果を試算しました。また、薪ストーブを利用することによって、生活の質の向上につながる効果があることもわかりました。
「只見町の民具の使用木材種:非破壊的方法による樹種同定の試み」
鈴木 海都、土本 俊和、井田 秀行(信州大学)
・調査研究の背景と目的
只見町には国指定重要文化財に指定されている民具のほか、指定外の民具が約九千点あり、これらの保存と利活用が課題となっています。従来の民具研究は、民俗学的な手法で地域の生活文化などを明らかにしてきました。本研究では新たなアプローチとして非破壊的な方法で民具に使用されている木材の樹種を特定し、民具の種類による樹種選択の違いやその理由を明らかにすることで、民具から見た樹木利用の伝統的知識を歴史生態学的な観点から体系的に整理しようと試みましたこれらにより文化財に指定されていない民具に新たな価値を見出すことができると考えました。
・わかったこと
コウシキ77点、堅杵72点、横杵43点、カケヤ7点、ヒブセ48点の合計247点の民具の樹種を判別しました。これら樹木は、近辺の山林で入手できる種でした。また、民具の用途に適した樹木を選択していたこともわかりました。例えば、除雪に用いられるコウシキには柾目面が滑らかで曲げ強度が高いブナが9割以上用いられました。また、杵の頭には硬く摩耗に強いイタヤカエデが、柄には堅く強度のあるキハダが多く用いられていました。
今後は破壊的な方法も併用する中で樹種判別精度を高めるとともに、民具を学校教育などの場でも幅広く活用できる可能性を探っていく予定です。
posted by ブナ at 11:59| 学術調査研究
2024年02月18日
2月18日(土)「冬のブナ林観察会」開催報告
2月18日(土)は、只見町深沢地区のブナ林を歩く観察会を開きました。町民11名・町外者8名、合計19名の参加がありました。
この冬の只見町は暖冬で、例年になく晴天・雨天が続いており、今が厳冬期であるにも関わらず雪がほとんど積もっていません。この日も2月とは思えない青空で、積雪深も只見の観測地点でわずか51pでした。
そんな少雪とは言っても、舗装路から一歩外れれば雪の上です。希望者にはかんじきやスノーシューを履いていただいた上で、雪景色の林へ足を踏み入れました。
ブナの樹皮に見える模様は、「地衣類」という生物が着生することで成立しています。地衣類とは菌類の一グループで、菌類の中に藻類が共生しているのが特徴です。ブナの樹皮にも様々な種の地衣類が着生しており、特に桃色の地衣類は、館長曰く他では見たことがなく、珍しい種ではないかとのことでした。
息を切らせて斜面を登った先に、ブナの巨樹が5本聳え立っていました。深沢集落のすぐ裏山にありながら、原生林に見るような迫力ある姿です。ここのブナ林は、かつて伐採利用されていた二次林ですが、これらの巨樹は伐り倒すにはあまりに大きいことから伐採を免れ、今日まで生き永らえてきたと考えられます。
中にはツキノワグマの古い爪痕が残るブナもあります。ブナの豊作年になると、ツキノワグマはブナの木に登り、春は花、秋は実を食べることが知られています。
ブナの幹や枝にはしばしばコブが見られます。枝に見られるコブは、枝が落ちたりして傷付いた後に、ブナが病気などの侵入を防ぐために形成します。
今回は2月としては好天に恵まれたブナ林観察会でした。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
posted by ブナ at 15:11| 自然観察会
2024年02月16日
只見駅構内にブナの葉っぱメッセージ
昨年10月、11月、只見こども藝術計画「ブナの葉っぱ日記」のワークショップを開催したところですが、
http://tadami-buna.sblo.jp/article/190652150.html
実はその際に用意した日記用のブナ林植物の葉っぱが余っていました。
話は変わり、昨年に只見線が全線運転再開の1周年を迎えるということで、その9月に子どもたちが只見線の利活用を考える「只見線こども会議」が開始されていました。子どもたちは只見線を応援するための27のアイディアを提案し、その中に「只見駅を季節にあった飾りつけをする」というものがありました。
昨年12月のクリスマスには、子どもたちが只見の山で拾い集めた木の実や木の葉でガーランドをつくり、駅構内の飾りつけをされています。その飾り付けの中に、駅を訪れた皆さんにメッセージを書いてもらえたらとの思いから、「ブナの葉っぱメッセージ」のコーナーを設置されています。
これは、只見こども藝術計画「ブナの葉っぱ日記」のワークショップに、「只見線こども会議」のメンバーの一部の子どもたちが参加されていて、そのご縁でワークショップの際に用意した木の葉の押し葉を、「ブナの葉っぱメッセージ」用に提供させていただいたものです。
先日開催された、只見ふるさと雪まつりにご来場くださった方からも、たくさんのメッセージが書かれていて、とても素敵なアイディアだね、とのお言葉も聞かせていただきました。
また、「只見線こども会議」の子どもたちが製作した木の葉ガーランドの一部を、ただみ・ブナと川のミュージアムのエントランスや休憩室にも飾りつけをしていますので、ぜひご来館の際はご覧いただけたらと思います。
ブナ林のたくさんの植物たちの葉っぱでつくった「ブナの葉っぱメッセージ」や「木の葉ガーランド」。その木の葉や木の実から、只見の豊かな自然を感じていただきながら、只見線と、それを盛り上げようとする子どもたちの思いに触れていただけたらと思います。
http://tadami-buna.sblo.jp/article/190652150.html
実はその際に用意した日記用のブナ林植物の葉っぱが余っていました。
話は変わり、昨年に只見線が全線運転再開の1周年を迎えるということで、その9月に子どもたちが只見線の利活用を考える「只見線こども会議」が開始されていました。子どもたちは只見線を応援するための27のアイディアを提案し、その中に「只見駅を季節にあった飾りつけをする」というものがありました。
昨年12月のクリスマスには、子どもたちが只見の山で拾い集めた木の実や木の葉でガーランドをつくり、駅構内の飾りつけをされています。その飾り付けの中に、駅を訪れた皆さんにメッセージを書いてもらえたらとの思いから、「ブナの葉っぱメッセージ」のコーナーを設置されています。
これは、只見こども藝術計画「ブナの葉っぱ日記」のワークショップに、「只見線こども会議」のメンバーの一部の子どもたちが参加されていて、そのご縁でワークショップの際に用意した木の葉の押し葉を、「ブナの葉っぱメッセージ」用に提供させていただいたものです。
先日開催された、只見ふるさと雪まつりにご来場くださった方からも、たくさんのメッセージが書かれていて、とても素敵なアイディアだね、とのお言葉も聞かせていただきました。
また、「只見線こども会議」の子どもたちが製作した木の葉ガーランドの一部を、ただみ・ブナと川のミュージアムのエントランスや休憩室にも飾りつけをしていますので、ぜひご来館の際はご覧いただけたらと思います。
ブナ林のたくさんの植物たちの葉っぱでつくった「ブナの葉っぱメッセージ」や「木の葉ガーランド」。その木の葉や木の実から、只見の豊かな自然を感じていただきながら、只見線と、それを盛り上げようとする子どもたちの思いに触れていただけたらと思います。
posted by ブナ at 00:00| イベント
2024年02月14日
早くもユビソヤナギが開花し始めました
昨日(2/13)、福島県の職員の方と只見町熊倉の伊南川沿いのヤナギ林でユビソヤナギの分布調査を行いました。ユビソヤナギは落葉高木で日本固有種ですが、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類、福島県のレッドリストでも絶滅危惧II類に分類されている希少種です。
そんなユビソヤナギにとって、只見町を含む只見川、伊南川は全国最大規模の自生地となっており、その存在は只見町の河川環境の自然度の高さを示してくれています。
ユビソヤナギは河川沿いに生育するため、しばしば堤防などの河川施設の管理においてユビソヤナギに配慮する必要が求められることがあります。ユビソヤナギという希少種を保護・保全することも重要、河川施設を適切に管理する中で流域の住民の方の生命・財産を守ることも重要、一見相反することのように思われますが、人と自然とが共生するユネスコエコパークである只見町ではこれらを両立していくための努力が求められています(いや、ユネスコエコパークでなくとも持続可能な発展を実現するにはどこででも実践されるべきと思います)。今回の調査もこのためのものでした。
さて、目当てのユビソヤナギですが、例年では3月中旬ごろから他の樹木に先駆けて開花するのですが、今年はなんともう咲き始めていました。例年より1ヶ月近く早い開花です。やはり暖冬の影響でしょうか。昨日の最高気温は7度、本日も最高気温が13度で季節外れの暖かさです。ユビソヤナギは、雄株、雌株と分かれていて、さらに虫媒花なので、受粉には虫たちに花粉を運んでもらう必要があります。花は咲いても、虫たちが動き出さないと、受粉・結実に至らないので、花が無駄になる可能性もあります。
これまで今回の調査のような比較的広くない範囲での保全に向けた現場は多くありましたが、最近は温暖化のような地球規模の影響とその対策の必要性を感じざるをえない場面が多くなってきているような気がします。
そんなユビソヤナギにとって、只見町を含む只見川、伊南川は全国最大規模の自生地となっており、その存在は只見町の河川環境の自然度の高さを示してくれています。
ユビソヤナギは河川沿いに生育するため、しばしば堤防などの河川施設の管理においてユビソヤナギに配慮する必要が求められることがあります。ユビソヤナギという希少種を保護・保全することも重要、河川施設を適切に管理する中で流域の住民の方の生命・財産を守ることも重要、一見相反することのように思われますが、人と自然とが共生するユネスコエコパークである只見町ではこれらを両立していくための努力が求められています(いや、ユネスコエコパークでなくとも持続可能な発展を実現するにはどこででも実践されるべきと思います)。今回の調査もこのためのものでした。
さて、目当てのユビソヤナギですが、例年では3月中旬ごろから他の樹木に先駆けて開花するのですが、今年はなんともう咲き始めていました。例年より1ヶ月近く早い開花です。やはり暖冬の影響でしょうか。昨日の最高気温は7度、本日も最高気温が13度で季節外れの暖かさです。ユビソヤナギは、雄株、雌株と分かれていて、さらに虫媒花なので、受粉には虫たちに花粉を運んでもらう必要があります。花は咲いても、虫たちが動き出さないと、受粉・結実に至らないので、花が無駄になる可能性もあります。
これまで今回の調査のような比較的広くない範囲での保全に向けた現場は多くありましたが、最近は温暖化のような地球規模の影響とその対策の必要性を感じざるをえない場面が多くなってきているような気がします。
posted by ブナ at 00:00| できごと