2023年09月28日

酷暑、少雨、残暑を乗り越えて 小雨の中のブナ林

 今年は全国的に酷暑でしたが(いまだに厳しい残暑が続いているところもあるようです)、只見町も例に漏れず厳しい暑さの夏、長い残暑でした。おまけに雨が少なく、例年であれば8月中旬からナラ枯れて葉が茶色く変色したナラが目立つのですが、今年は半月ほど早い7月下旬にはこれが目立つようになりました。暑さを加えての水分不足で樹木へかなりの水分ストレスがかかっていたはずです。森を歩けば、地面は乾いており、草木の葉もどことなく元気がありませんでした。先週半ばごろからようやく気温も下がり始め、雨も降るようになりました。そんな中、小雨で霧がかかった癒しの森のブナ林で大学生グループのスタディーツアーの案内をしましたが、久しぶりの涼しさと潤いでブナ林も人間もほっとしていたような気がします。しかし、この気温上昇が続けば、生態系、さらには私たちの生活へ大きな影響を及ぼすのは確実です。自分のできることから確実に温暖化対策を実施していくことが重要です。

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posted by ブナ at 00:00| ブナ林

2023年09月26日

日本自然環境専門学校の只見実習を支援−スギ人工林と落葉広葉樹二次林の将来を担う若木調査

 9月15-16日で新潟市にある日本自然環境専門学校の先生・学生さんが実習のために只見にお越しになりました。現在、只見町では町内にある未利用となっているスギ人工林や落葉広葉樹二次林(旧薪炭林)を間伐し、間伐材を薪エネルギーとして利用し、化石燃料に少しでも頼らない低炭素社会と地域経済の循環を目指す事業が進んでいます。全国各地で木材をエネルギーとして使う試みがされていますが(バイオマス発電については近年は資源が足りなくなり地域間での資源の取り合い、地域外からの購入など本来の目的から乖離した本末転倒な状態となっていて問題です)、ややもすると“林を伐って、使う”ということばかりに視点が置かれる傾向があります。しかし、本来の目的は“森林資源を持続可能に利活用すること”であるはずです。木を伐って終わりではなく、木を伐った林が将来も木材利用をはじめ水源涵養など林としての機能が保たれるようにしなくてはなりません。木を伐った場所で木を植え、再び林を成立させるという方法もありますが、コストや手間を考えると現実的ではありません。特に、只見町のような豪雪地帯では雪の影響があり、さらにコストと手間がかかります。そこで、自然の力に任せるという方法があります。つまり、既に林の中にある若木に育ってもらうということです。この方法は逆に言えば林の中に若木がなくてはなりません。
 そこで、今回の専門学校の実習では、スギ人工林と落葉広葉樹二次林にどんな種類の高木種がどのくらいあるかを調査してもらいました。各林の中で1m四方の枠を連続して50mつくり、各枠の中に出現する高木種の種類、大きさ、数を記録していきます。学生さんは最初は樹種の同定で戸惑っていましたが、出てくる種類はそれほど多くなく、繰り返しの作業をするなかで調査を終えるころにはほとんど覚えてしまっていました。学生さんたちは森林に関する仕事に就く予定とのことですが、今回の経験を仕事に活かし、日本の森づくりに役立てていただければと思います。

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まずは代表的な樹種を覚える

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スギ人工林での調査

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落葉広葉樹二次林での調査
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2023年09月25日

地域の遺伝子を守る! 在来イワナの分布調査

 只見町の渓流魚の代表といえば、イワナです。この地域に本来生息していた在来のイワナはニッコウイワナとされますが、1970年代から内水面漁業の振興のために放流された養殖イワナと交雑が進み、残された在来イワナの生息河川は非常に限られ、絶滅寸前の状況にあります。在来種の遺伝子保全の観点から只見町の在来イワナの集団と生息河川を特定し、それらを適切に保護・保全する必要があります。そこで、DNAを指標として在来イワナの生息河川を特定するための調査を実施しています。調査方法は、イワナを釣り上げ、イワナには申し訳ないですが脂鰭(アブラビレ)だけサンプリングさせてもらい、このサンプルをDNA解析するというものです。只見町の河川は非常にたくさんあることから(名称がある河川だけでも800以上!)、サンプリングには地元漁協さんや住民の方などにご協力をいただいております。地球の長い年月が生み出した遺伝子という宝を将来に引き継ぎたいと思いますし、それが実現できることは只見町のさらなる魅力にもつながると考えています。

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posted by ブナ at 00:00| 学術調査研究

2023年09月21日

地獄の業火!?猛毒キノコのカエンタケ

 只見町内のナラ枯れ被害に遭った広葉樹林で植生調査をしていたところ、ナラ枯れで枯損したコナラの根元にカエンタケ(火炎茸)を見つけました。カエンタケは猛毒キノコとして知られ、誤食すれば重篤な症状に陥り、死に至る事例も発生しています。また、肌に触れるだけでも強い皮膚炎を発症させると言われます。ナラ類などの広葉樹の枯損木の根元などに発生し、近年はナラ枯れ被害の拡大とともに発生が増えているとの指摘もあるようです。地面から炎のように生える様とその危険性はまさに和名の通りで、命名者のネーミングセンスと、カエンタケの造形美にも感心してしまいます。しかし、危険なことにはかわりないので、ナラ類の枯損木の根元には注意し、触ったり食べたりすることがないよう気を付けていただきたいと思います。

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2023年09月17日

9月16日(土)「仲秋のトンボ観察会」開催報告

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 2023年9月16日(土)、黒谷地区のビオトープにおいて「仲秋のトンボ観察会」を行いました。今回は、ただみ・ブナと川のミュージアムにて開催中の企画展「只見のトンボ」に関連した観察会です。本企画展を担当した指導員・太田が解説を務めました。

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 トンボと言えば秋のイメージがあるかもしれませんが、トンボの成虫が最も多く出現する(種数が最多となる)時期は夏で、只見町の場合7月下旬頃に種数のピークを迎えます(約55種)。このため、9月半ばはトンボの数が減ってきた時期に当たります(30種弱)。この時期は種数こそ夏には及ばないものの、秋に繁殖活動を行う種の観察には適しています。
 昆虫は気温条件に敏感で、春秋はわずかでも日が陰ると途端に姿を消してしまいますが、9月のこの時期であればまだ気温は下がり過ぎないので、少々日が陰っても観察に支障はありません。

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▲黒谷上野地内ビオトープ(池)

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▲黒谷上野地内ビオトープ(水路)

 観察地「黒谷上野地内ビオトープ」は、元々田んぼだったものをビオトープとして造成した土地で、ヒメガマなどの湿生植物が繁茂した約2,000uの池をメインに、山手には小さな砂礫が堆積した幅約50 cmほどの水路も隣接した環境です。
 観察会では池と水路それぞれにおいて、トンボの成虫と幼虫(ヤゴ)を網で捕ったり、双眼鏡で見るなどして観察した上で、環境とそこで暮らすトンボの違いを解説しました。さらに、トンボと同所的に見られるその他の水生生物についても触れ、水生生物の多様性について理解を深めていただけるよう努めました。

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▲観察会で撮影されたトンボ(成虫)

 まずはトンボの成虫です。池と水路を合わせて15種の成虫が見られました。オオルリボシヤンマは池の優占種で、20個体近い雄が池の上を飛び回って、雌を探したり雄を排斥する様子が見られました。オオルリボシヤンマは寒冷地性のヤンマで、東北地方の止水では普遍的に見られますが、暑さには弱く、この日も11時を過ぎる頃には数が減っていました。
 また、キトンボは翅の基部まで橙色に色づくアカトンボで、最も秋遅くまで活動する種です。この日は早くも2個体の雄が池のヒメガマ上で占有行動をとっており、繁殖活動のスタートを知ることができました。
 ルリボシヤンマやアカトンボの仲間はこのように秋に繁殖活動を行い、水辺を華やかに彩ります。

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▲福島県では珍しいコノシメトンボ

 この日一番の大物がコノシメトンボでした。アカトンボの一種で、翅の端の褐色斑と、雄では全身が赤くなるのが特徴です。開放的な止水に生息し、西日本では学校プールで繁殖するような適応力の高い種ですが、福島県を含む東北地方では局地的な分布を示し、観察困難な種の一つに数えられます。この日は幸運にも池の沖の方で雄が1個体見つかり、約 30 m を隔てた遠距離ではありましたが、双眼鏡で観察することができました。

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 続いては水網を持って池に入り、トンボの幼虫をはじめとした水生生物を探しました。いわゆる「ガサガサ」です。

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▲観察会で採集された水生生物(池)

 池では種不明(属止まり)を含む5種のトンボの幼虫が採集されました。特にルリボシヤンマ属(おそらくオオルリボシヤンマ)の幼虫が多く、次いで春に成虫が現れるコサナエの幼虫も複数採集されました。これら2種は成長に最低でも2年を要するため、池が枯れることなく通年水を湛えていることが必須条件となります。
 その他の水生生物も多様でした。池にフサモなどの水草が繁茂していることから、水草を餌として利用するガムシの仲間(ガムシ、コガムシ、ヒラタガムシ類)が多く見られました。肉食性の種としては、ゲンゴロウの仲間(クロゲンゴロウ、コシマゲンゴロウ、コツブゲンゴロウ)や、カメムシ目(ミズカマキリ、マツモムシ)などが採集されました。小さな甲虫ではコガシラミズムシも複数見られました。また、魚類ではドジョウ、両生類ではトノサマガエル、貝類ではマルタニシが確認されました。こうした生物多様性の背景として、天敵となる大型の外来生物が生息していないことが挙げられます。もしここにコイやウシガエル、アメリカザリガニのような侵略性の高い外来種が入ってしまえば、在来の水生生物はたちまち数を減らしてしまうでしょう。外来種の侵入阻止は水辺環境の生物多様性を守る上でたいへん重要です。

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▲観察会で採集された水生生物(水路)

 池の次は水路でのガサガサです。トンボの幼虫は2種が採集されました。ここではオニヤンマの幼虫が圧倒的に多く、場所によっては一掬いで5個体以上が網に入りました。オニヤンマは細く緩やかな流れに生息し、幼虫は砂泥底に潜り込んで生活します。そのため、昔ながらの素掘りの水路はオニヤンマには好適な生息地だったのですが、圃場整備に伴う水路のコンクリート護岸化によって、今ではオニヤンマが棲めなくなってしまった水路が殆どであるように思われます。
 その他の水生生物も池とは異なる顔ぶれで、水生昆虫ではトビケラ目(ナガレトビケラ科やホソバトビケラの仲間)や、流水性のシマアメンボ、甲殻類ではサワガニ、両生類ではトウホクサンショウウオの幼生などが採集されました。いずれも流水や低水温を好む種です。

▼今回の観察会で確認されたトンボ目のリスト
(クリックすると別ウィンドウで開きます)
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 今回、黒谷上野地内ビオトープでは18種のトンボが確認されました。

 朝方を中心にオオルリボシヤンマが多数飛び交い、その他にもアオイトトンボやマユタテアカネ、キトンボなどの秋季性のトンボが確認されました。また、たも網によるガサガサではオニヤンマの幼虫が水路で多く採集されたほか、湿生植物の豊富な池では、ルリボシヤンマ属やコサナエなどの幼虫に加え、クロゲンゴロウやガムシ、ドジョウ、マルタニシなど多様な生物が採集されました。このように、水辺環境では流水/止水の区別のみならず、植生や水深、日照条件、天敵の有無、季節や時間帯など実に様々な要因によって、見られるトンボの種類相が変化します。

 今回は、池と水路という異なる2環境で、成虫と幼虫の両方を調べることにより、その違いの面白さを知っていただける観察会になったかと思います。ご参加下さった皆様、ありがとうございました。

タグ:自然 只見町
posted by ブナ at 16:51| トンボ