2023年06月30日

初夏のブナ林観察会活動報告

2023年6月18日、梁取の「学びの森」にて初夏のブナ林観察会を実施しました。
本観察会では、梁取のブナ林に生育する樹木に焦点を当て、当館館長の紙谷が解説を行いました。また、現在町で取り組んでいるブナ林の樹木を産業に活かす事業、只見ブナ林ブレンドの樹木茶の試飲と、材料となる葉の採集も行いました。

※ブナ林ブレンドプロジェクト:只見町のブナ林に生育する樹木の機能性に着目しつつ、葉や枝を活用したブナ林ブレンドを開発し、商品開発による地域活性化を目指すプロジェクトです。

本観察会では、まず参加者の皆さまに梁取ブナ林の観察路で見られる樹木62種のリストをお渡ししました。そのうえで、観察路を歩きながら、参加者から気になった樹木の枝葉を採集していただきました。紙谷館長からは、樹種名と見分け方、特徴や生態について解説し、皆さまが各自でリストに要点を記録しました。
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▲樹木の枝葉を採集する参加者

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▲解説のようす

以下ではその一部を紹介します。

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▲ミズナラ
ナラ科の落葉広葉樹です。コナラと比較して葉柄が短い点、葉の鋸歯が大きく丸みを帯び、葉に大きな切れ込みが入っているように見える点が異なります。幹の樹皮が薄く剥げるところも特徴です。

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▲オオバクロモジ
緑色に黒い模様がある細枝が特徴で、雄と雌の木が別々の雌雄異株です。独特の芳香があり、爪楊枝などに用いられます。只見ブナ林ブレンド樹木茶の原材料の一つです。

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▲コシアブラ
5枚の小葉で構成される掌状複葉が特徴です。樹皮は灰白色で地衣類がつき、ブナに似ています。新芽が山菜として食されます。

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▲ブナ林ブレンド樹木茶を試飲する参加者
観察会も後半にさしかかったタイミングで休憩をとりました。ここで水分補給も兼ねて冷えたブナ林ブレンド茶を試飲しました。参加者の皆さまから頂いた反応は上々でした。

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▲ブナ林ブレンドの材料になる葉を採集する参加者

最後は皆でブナ林ブレンドの材料になる葉を採集しました。


DSCN1793.JPGそれでは、また次回の観察会でお会いしましょう
posted by ブナ at 10:26| イベント

2023年06月25日

6月25日(日) 野鳥観察会(毘沙沢)開催報告

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 2023年6月25日(日)、布沢地区の毘沙沢において「春から初夏の野鳥観察会」全5回の最終回を開催しました。今回は町民7名、町外からは県内5名、関東圏から3名、計15名の参加がありました。晴天に恵まれ、照り付ける日向では夏の暑さが感じられました。

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▲毘沙沢の景観

 毘沙沢は布沢地区の「大畑内沢」の奥地にあります。「毘沙沢」とは興味を惹く地名ですが、由来はわかっていないようです。菅根橋左岸の袂から南西へと伸びる林道に沿って、ナラ類を主体とした落葉樹林や、別荘地、廃田などがあります。今回の観察会では「森林の分校ふざわ」を拠点に、徒歩で毘沙沢への林道を往復するコースを設定しました。

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▲駐車場から撮影されたサシバ。左上は成鳥で縄張り個体、右下は若鳥で侵入個体と思われる

 分校ふざわの駐車場でさっそく、サシバの姿が目に入りました。成鳥や若鳥など4個体が次々と浮上し、上空を通過していきました。縄張り個体が侵入個体を追い払う、防衛行動の一場面だったと思われます。

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 菅根橋を渡った先の登り坂を行くと、左手のスギ林から「キョロロロロ…」というアカショウビンのさえずりが聞こえてきました。それも数分間に渡って鳴き続けたので、参加者全員が聞き取れたようです。ただ、目視は叶いませんでした。この登り坂では他にも、モズやカケス、キセキレイ、イカルなどが確認されました。
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▲カケス

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▲珍しい夏鳥・ノジコ。写真は5月に梁取地区にて撮影された雄

 別荘地から先へ進み、渓谷が狭くなった辺りで、ホオジロに似つつ、音節や鳴き終わりなどが若干異なるさえずりが聞こえてきました。ホオジロ科のノジコです。ノジコは世界的分布が狭く、日本の本州中・北部だけで局所的に繁殖する珍しい種として知られています。只見町では布沢地区のほか、塩沢地区でよく見られます。生息環境は藪のある林などですが、しばしば行動圏内に湿地などの水辺が隣接するパターンがあり、只見町の生息地でも同様の傾向があります。毘沙沢も、細い沢筋に沿って林縁や、湿地となった廃田が広がり、ノジコの生息条件を満たしていると思われます。残念ながら目視はできませんでした。

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▲オカトラノオ

 道中、オカトラノオが白い花を咲かせ始めていました。

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▲キバネセセリ。参加者にとまっている

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▲美しいハンノアオカミキリ

 昆虫も初夏の顔ぶれとなってきました。春はよく聞かれたエゾハルゼミの鳴き声はせず、替わって梅雨時に現れるニイニイゼミの「ヂー」という単調な鳴き声が聞かれるようになりました。チョウは明るい草地でヒメシジミが多く、林内では寒冷地に多いキバネセセリが2個体見られました。イネ科の草地では黄金色のナキイナゴもおり、「シリリリリ」という鳴き声がよく聞かれました。また、カミキリムシではブナ帯に多いコブヤハズカミキリや、青緑色に美しく光るハンノアオカミキリが見られ、後者の姿には感嘆の声が上がりました。

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▲換羽中と思われるゴジュウカラ

 復路の道すがら、落広林ではコゲラやヤマガラ、ゴジュウカラ、メジロの4種が群れている様子が観察できました。ヤマガラは巣立ち後間もない幼鳥が混ざっていました。ゴジュウカラは羽がぼろぼろで、羽が生え変わる「換羽」の最中と思われます。

▼今回の野鳥観察会で確認された種のリスト
(クリックすると別ウィンドウで開きます)
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 今回の野鳥観察会では、合計25種が確認されました。アカショウビンやノジコのさえずりをじっくり聞くことができたほか、サシバの活発な飛翔が見られました。巣立ったばかりのヤマガラの幼鳥や、オカトラノオなど梅雨時の動植物も多く見られ、季節の移り変わりを感じられる観察会になったと思います。ご参加下さった皆様、ありがとうございました。今年の秋冬にも、また野鳥観察会を企画したいと思います。
posted by ブナ at 19:10| 自然観察会

2023年06月14日

ナラ枯れの防除

 只見町にはブナだけでなく、ミズナラやコナラなどナラ類が生育する林も少なくありません。ところが、2011年ごろからナラ類が枯れる被害(ナラ枯れ)が急速に広がっています。
 ナラ枯れは、カビの仲間の「ナラ菌」による伝染病で、この病原菌を木から木へ運ぶのが甲虫のカシノナガキクイムシ(通称「カシナガ」)です。カシナガは、幹に空けた孔でナラ菌などを育て、幼虫も成虫もそれを餌にして生きています。
 幹の中でナラ菌が繁殖した木は、道管から水を吸い上げることができなくなり、死に至ることが知られています。
 そのため、只見町ブナセンターでは、町指定の「観察の森」に生育する大きなナラ類の幹に殺菌剤を注入する作業を行っています。

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posted by ブナ at 00:00| 保護・保全

2023年06月10日

「只見ユネスコエコパーク定期報告(案)」に 関する意見募集(パブリックコメント)が開始

平成26(2014)年に登録された只見ユネスコエコパークは、令和6(2024)年に登録10周年を迎えます。実は、ユネスコエコパーク登録地域は、生物圏保存地域世界ネットワーク定款(The Statutory
Framework of the World Network of Biosphere Reserves)に基づき、10年ごとにその間の諸活動や変化などを記述した報告書(定期報告)をユネスコへ提出するという国際協力を行うことになっております。この度、只見ユネスコエコパークの管理運営組織である只見ユネスコエコパーク推進協議会が、この10 年の間の様々な変化や取り組みを記載した定期報告(案)を作成し、この案に対するパブリックコメントを開始しております。定期報告の作成は、国際協力であるだけでなく、次の10 年に向けて改善あるいは取り組むべき事柄を明らかにし、より発展的に生態系と人間活動の調和と持続可能な開発を実現するための機会です。
只見ユネスコエコパークの公式HPで定期報告(案)や意見提出様式が公開されております。
http://tadami-br.jp/

意見の募集範囲は、只見町に在住する方となっておりますが、そうでなくともこの10 年の間の只見ユネスコエコパークを知る機会となっておりますので、よろしければご覧ください。
posted by ブナ at 11:32| ユネスコエコパーク

2023年06月03日

只見町の古民家調査の成果が国際科学雑誌で発表

2015年から2021年にかけて、信州大学教育学部の井田秀行教授らが只見町の古民家に関する調査研究を進めておりました。この度、その調査研究の成果が、国際科学雑誌「Ecological Research誌」に発表されることとなりました。井田教授らには、古民家調査を通して只見町の自然と人との関わりを明らかにしていただき、論文発表はこれらの成果を国内外に発信いただく機会となっております。只見町ブナセンターとしても井田教授らの調査研究を支援して参りましたし、もちろん町民の方のご協力があってのことがこのような形に結びついたことは大変喜ばしいことと思っております。 オープンアクセスとなっており、どなたでも論文のPDFをダウンロードいただけます。よろしければご覧ください。
https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.12408

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論文のタイトル:
「Optimizing species selection for the structural timbers of traditional farmhouses in a snowy rural area of northeastern Japan(東北地方の豪雪農村地域における古民家の構造材の最適な樹種選択)」

著者:井田秀行・佐藤拓真・陸川雄太・阿部伶奈・梅干野成央・土本俊和

論文要旨:
地域の木材を利用して建てられた伝統民家には、森林資源の利用に関する情報が含まれている。本研究では、伝統農家建築(古民家)に木材がどのように利用されていたかを明らかにするため、豪雪地帯である只見町において、1845年から1940年頃までに建てられた11棟の古民家の部材の木材種を同定し、また、住民70世帯から聞き取りを行った。調査した2004部材(1棟あたり99–308部材)、合計材積171.2立方メートル(1828部材)からは、計14種が特定された。このうち、スギとキタゴヨウがそれぞれ材積で44%、39%を占めた。ブナは3番目に多く(7%)、屋根を支える扠首(サス)、梁、桁に用いられていた。聞き取り調査の結果、木材は距離1km以内の私有林や共有林から調達され、地元の職人によって伐採、搬出、運搬されていた。たびたび生じる雪崩によって特徴づけられる当該地域特有の複雑な植生を考慮すると、地域の高木やその林で、最も入手しやすい樹種はスギであり(ただし自生か植栽由来かは不明)、次に、集落周辺の山の尾根に自生するキタゴヨウであったと思われる。一方、十分な量の木材を供給できるブナ林は限られていたと考えられる。以上から、只見町では雪深い厳しい環境にもかかわらず、歴史的に地元で入手可能な高木が材木として選択されていたと結論づけられる。
posted by ブナ at 09:20| 論文