2021年07月31日

企画展「只見のブナ林の昆虫」開催のお知らせ

 只見町ブナセンターでは、本日7月31日(土)より、付属施設「ただみ・ブナと川のミュージアム」2階ギャラリーにおいて、企画展「只見のブナ林の昆虫」を開催いたします。皆さまお誘いあわせのうえ、ぜひお越しください。

〇内容
 日本有数の豪雪地である只見町には、積雪環境に適応したブナの森が豊富に存在します。只見の人達にとって身近な存在だったブナは、他の広葉樹とともに、定期的に伐採利用されていました。集落近くでは利用されなくなったかつての薪炭林である二次林が広がる一方で、人手がほとんど入らなかった奥山には、成熟したブナ天然林が残されています。そうした環境にはブナ林を棲みかとする昆虫が数多く暮らしています。
 本企画展では、只見町のブナ林で見られる代表的な昆虫類を取り上げ、それらがブナをどのように利用しているのか、またブナ林のどのような環境を必要とするのかを解説するとともに、ブナ天然林と二次林における昆虫相の違いについても明らかにします。  
 写真を中心とした解説パネルの展示と昆虫標本などの現物展示通して、只見町におけるブナ林の生態系や生物多様性について、昆虫の視点から理解を深めていただく機会となれば幸いです。

〇会期
2021年7月31日(土)〜11月29日(月)
〇場所
ただみ・ブナと川のミュージアム 2階ギャラリー
〇入館料
高校生以上310円、小・中学生210円
※20名以上の場合は団体割引があります
※只見町内在住の小・中・高校生は入館料が無料になります
お問い合わせは只見町ブナセンターまで
電話1(プッシュホン)0241−72−8355
午前9時〜午後5時(火曜休館)

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posted by ブナ at 10:14| Comment(4) | 企画展

2021年07月19日

自然観察会「初夏の只見沢で渓畔林と雪食地形をみる!」開催報告

 6/26、只見沢の浅草岳登山道沿いにて観察会を行いました。只見沢は、雪食地形、只見地域の代表的な森林植生であるブナ林、さらにはトチノキ・サワグルミの渓畔林といった只見地域を象徴する自然環境を観察できるコースとなっています。参加者は14名で、ブナセンター指導員が解説を行いました。

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▲只見沢右岸の雪食地形

 只見沢浅草岳登山口の駐車場からは見事な雪食地形を見ることができます。こうした地形の形成には只見地域の主な地質で比較的脆い緑色凝灰岩(グリーンタフ)と豪雪による雪崩の浸食が大きく関わっています。また、只見地域の森林植生にも大きな影響を及ぼしています。すなわち、急峻で複雑な地形により、尾根部にキタゴヨウなどの針葉樹林、雪崩斜面にミヤマナラなどの低木林、斜面下部などの緩斜面にブナ林、谷部にトチノキ・サワグルミの渓畔林で、立地環境により植生のタイプが異なります。ブナ林についていえば、山地一面に広がっているわけではなく、一部地域を除けば、比較的小さな面積の林が断片的に分布しているのが特徴です。

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▲アズマヒキガエルの幼生

 只見沢に並行する登山道に入り、入り口からしばらくは地面がぬかるんでおり、木道の上を進みます。その途中、水たまりでアズマヒキガエルの幼生が見られました。アズマヒキガエルは平地から山地まで、様々な環境に生息するカエルです。繁殖期には多数のオスが少数のメスを奪い合うカエル合戦をすることで有名です。


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 さらに進むと、冷温帯の渓畔林を代表するトチノキとサワグルミが優占する林を見ることができます。トチノキの葉が天狗の羽団扇のような掌状複葉なのに対して、サワグルミの葉は小葉が羽状に並ぶ奇数羽状複葉です。サワグルミの一斉林も見ることができ、過去に発生した土石流の跡地に更新してきたと考えられました。


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 さらに登山道を進み、只見沢から離れた緩斜面に出ると、比較的成熟したブナ林に出会います。林床はササではなく、ユキツバキが覆っています。只見町のブナ林は比較的低標高であり、林床はユキツバキ型のブナ林を見ることができます。林内には倒木があり、その表面にはコケやキノコが生え、それらを食べるヤスデやヤマナメクジが集まっていました。さらに、キノコ等に集まるハエ等の小昆虫を捕食するサビハネカクシの姿も見られました。成熟した森林で見ることができる倒木は様々な生物の餌資源や隠れ場所になるだけでなく、それらの生物を捕食する生物も集まり、生物多様性に貢献しています。


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 幽の倉沢の渡渉の仮橋の折り返し地点に聳える、見上げるほど高い雪食地形の断崖絶壁。雪崩の影響のため高木は見られず、所々岩が露出しています。谷底にはまだ雪渓が残っていました。残念ながら当日は季節から外れていましたが、6月上旬であればこの絶壁の草地では自生するヒメサユリが花を咲かせる姿を見ることができます。雪崩で山肌が削られ、開放的な草地が維持されるこのような崖は、ヒメサユリにとって極めて好適な環境です。ヒメサユリは積雪深の深い地域に分布する希少植物ですが、このような豪雪によって作られる環境に依存している事がその要因の一つと考えられます。

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▲マガタマハンミョウ
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▲大きな複眼と発達した大顎を持つ、愛くるしい肉食系の顔

 観察会中は様々な生き物に出会うことができましたが、特に数が多かったのはマガタマハンミョウでした。ブナ帯を代表する昆虫の一つで、北海道南部、本州中部以北、佐渡島に分布します。後翅が退化しており、飛翔しないのが、ハンミョウの仲間の中では特異な点です。大きな複眼と発達した大顎をもつ捕食者で、素早く地表を駆け回り、自身より小さい動物を捕食します。


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▲ギンリョウソウ
 他にもヒメフナムシやギンリョウソウ、カマドウマの仲間等を見ることができました。


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 直前の予報では天候が危ぶまれましたが、当日は日差しに恵まれ、林内も暖かく、様々な生き物が顔を見せてくれました。コロナ対策ということで参加者の皆様にはマスクの着用をお願いしていたこともあり、ゆっくりと歩き、解説を多めで案内をさせていただきました。参加者の方々からは「今回は只見の自然が凝縮されたフィールドで、大変興味深く楽しめました。サワグルミ、トチ、ブナ、昆虫もおもしろいです」などの声が寄せられました。

 今後も只見町ブナセンターでは、只見の多様なフィールドを活かした観察会を予定しています。今回天候などで参加を見合わせられた皆様も次の機会に是非ご参加ください。指導員一同、お待ちしております。
posted by ブナ at 19:20| Comment(5) | イベント

2021年07月15日

福島県立会津学鳳高等学校のブナ林研修を支援!

 令和3年7月10-11日、福島県立会津学鳳高等学校(スーパーサイエンスハイスクール指定)の1年生52名が只見町を訪れ、ブナ林研修を実施し、只見町ブナセンターはこれを支援しました。今回の研修の目的は、ブナ林の観察を通して森林の構造と生物多様性に関する知識を深めるというものでした。

 1日目は、ただみ・ブナと川のミュージアムを見学後、布沢地区の癒しの森で、原生的なブナ林とかつての薪炭材生産のために原生的なブナ林が伐採され、再生してきたブナ二次林を観察し、植生断面図を作成しながら2つのブナ林の構造的な違いを考えてもらいました。


 2日目は、深沢地区の林で、5つの林(スギ人工林、落葉広葉樹二次林、ブナ二次林、ブナ成熟林)で毎木調査、低木調査、光環境調査を行ってもらいました。生徒さんたちは得られたデータを学校に持ち帰り、今後の授業の中で、異なる種類の林の構造や光環境と林床の樹木の多様性の関係について検討されるとのことです。
 森に入るのも慣れない生徒さんが多かったようですが、頑張って2日間の研修に取り組んでいました。研修の内容も、大学生が取り組むようなレベルの高いものでしたが、今回の現地で体験した森林とこれからデータで再現する森林から、少しでも森林への興味や理解を深めていただければ嬉しいですね。









posted by ブナ at 11:28| Comment(2) | 自然観察会

2021年07月02日

あがりこ型樹形のコナラ巨木をナラ枯れから守る!(その後)

 昨年9月、ナラ枯れ被害をうけている只見町黒沢のあがりこ型樹形のコナラ巨木に殺菌剤を注入し、この6月19日に殺菌剤注入木の生存確認調査を実施しました。

 「ナラ枯れとは?」、「只見町でのナラ枯れ被害の状況」、「あがりこ型樹形のコナラ巨木の特徴」、「ナラ枯れ防除作業」については過去のブログ(下記URL)に記してありますので、そちらをご覧ください。
http://tadami-buna.sblo.jp/article/186064230.html

 只見町ブナセンターでは、2012年より殺菌剤の樹幹注入により黒沢区あがりこ型樹形のコナラ巨木のナラ枯れ防除を行っていますが、それでも近年は枯死するコナラが散見されるようになりました。当初よりご指導いただいている齊藤正一先生(現・山形大学農学部客員教授、只見ユネスコエコパーク支援委員会委員)に相談したところ、ナラ枯れの原因となるナラ菌がこれまで使用してきた殺菌剤に対する耐性を持ち始めている可能性があるとのことでした。そこで、2020年9月、齊藤先生のご協力により新しい殺菌剤の効果試験を兼ねた殺菌剤注入作業を実施しました。従来使用してきた殺菌剤と新しい殺菌剤とで注入量を変えながら50本以上のコナラなどの樹木に薬剤注入しました。また、このときはこれまで殺菌剤注入時期として実施しきた春注入ではなく、春季の開葉時期と同時に殺菌剤の有効成分が樹幹内に行き渡ることが期待される秋注入としました。

 前置きが長くなりましたが、今回6月の生存確認調査(新薬の薬害調査)では注入木のほぼすべての生存を確認し、新薬の薬害もなかったようです。しかし、ナラ菌を媒介するカシノナガキクイムシの活動が活発になり、ナラ枯れ被害が本格化するのはこれからの季節です。今秋にも同様に生存確認調査(新薬の効果調査)を実施します。かつて只見町の住民が持続可能な形で森林資源を使用してきたことを伝える貴重な歴史遺産「あがりこ型樹形のコナラ巨木」を保全できればと期待しています。

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posted by ブナ at 09:42| Comment(3) | イベント