ただみ・ブナと川のミュージアムから車で10分ほどの所に、楢戸のブナ二次林はあります。はじめに注意事項を説明してから森に入りました。ヌルデやヤマウルシ、ツタウルシは肌に触れるとかぶれることもあり注意が必要です。それぞれの特徴を説明し、さらにスタッフ自身の肌がかぶれた実体験も紹介しました。
▲どれがヤマウルシなのかを確認する参加者
林内に入るとさっそく参加者がブナの樹を見つけました。ブナの樹皮には特徴があり、比較的すべすべで、白っぽく、まだら模様があります。しかしよく見ると、その横にも同じような樹皮の樹がありますが頭上の葉の形や大きさが全くちがいます。これはホオノキで樹皮だけ見るとブナによく似ています。
▲左がブナ、右がホオノキの幹
ブナの樹皮にはまだら模様の斑がありますが、これは地衣(ちい)類がブナに着生しているためです。地衣類は菌類の中に藻類が共生したもので、藻類は菌類の体を住処とし、菌類は藻類が光合成で生産した栄養分を利用するという関係にあります。これらの地衣類はブナの幹をより高くのぼり、光がよくあたる所に生活場所を求めています。地衣類の中には様々な種類があり、ブナの樹皮にも様々な種類の地衣類が生育しています。
続いて、「かじご焼き」の痕跡を観察しました。かじご焼きは只見町で行われていた伏せ焼きによる炭焼きの技術です。通常の炭作りのように炭焼き窯を作らず、山中に穴を掘り、灌(かん)木を入れて燃やし、土をかぶせてむし焼きにし、約1週間後に掘り出すと、炭になっています。この炭は着火が早く、火力が弱いことから、主に掘りごたつ用の炭として使われました。化石燃料が手に入る頃には急速にかじご焼きは衰退し、現在は行われることはなく、山中の無数のかじご焼きの穴からかつて盛んに行われてきたことを伺い知ることができます。事実、かじご焼きが行われる晩秋から初冬にかけては山の裾野からかじご焼きの煙が立ち上り、その光景が風物詩となっていました。
足元には今春芽ばえたブナの実生と昨年の秋に落ちた殻斗がありました。ブナはおおよそ2年に1度の頻度で結実し、さらに結実年であってもおおよそ5−7年の間に一度豊作の年があります。昨年の2018年はブナの豊作年でした。参加者の方から、ブナがそのような頻度で種子を作ることに何か有利な点はあるのか?というご質問をいただき、指導員が、毎年多くの種子を生産すると、それを食べるネズミなどの動物が増えるので、少ない年をつくり、捕食者が減ったところで、多くの種子を作ることで、種子の生き残りを図っているなどの仮説が考えられていると返答しました。
▲様々な樹種の実生が見られた林床
ブナの堅果は人間も食べることができると指導員が説明すると、参加者の中にはぜひ食べてみたいとおっしゃる方もおりましたが、落ちているのは虫食いの穴があって中身がからっぽのものや秕(しいな)ばかりで、残念ながら今回は食べることができませんでした。実際、種子は灰汁抜きなどすることなく食することができ、クルミのような風味がして美味しいです。さらに当年生の芽生えたばかりの実生も子葉部分も美味しく食べることができます(ただし、もし食される場合は自己責任でお願いします)。事実、ブナの種子は蛋白質と脂質に富み、野生動物の重要な食料となっています。ツキノワグマもこれが大好きです。
楢戸の『観察の森』で最も大きいブナの樹皮にはツキノワグマの爪痕があります。4月の下旬頃、ブナの花が咲くとツキノワグマが木に登るようです。このブナの胸高周囲長を参加者の方達に実測していただきました。みなさんは、3mや3.5m、はては5mほどあると予想しましたが、実際の周囲長は2m84cmでした。
▲楢戸ブナ二次林のブナ(マザーツリー)の胸高周囲長を実測する参加者
観察会の最中たまたま、『観察の森』の地権者の方がお見えになりお話をうかがいました。この森はもともとブナのみならず、クリやミズナラの混交林だったそうです。しかし、30年ほど前にクリやミズナラをシイタケ栽培の榾木(ほだぎ)として利用するために選択的に伐採したため、現在ではブナの純林に近い状態になりました。また、『観察の森』の奥地には『観察の森』の6〜7倍もの広さのスギ林が広がっています。先先代にあたる方がスギを一所懸命に植林した結果であり、当時はスギの植林がブームとなっていたそうです。
楢戸のブナ二次林は薪炭利用のための天然林の伐採後にミズナラ、ブナ、クリなどが混交した二次林が成立し、その後、ミズナラとクリがキノコの榾木生産のため取り除かれ、ブナの純林が成立し、現在に至っています。このように、楢戸のブナ二次林は集落裏に隣接し、人とブナの歴史的なつながりをあらわしています。
▲参加者の集合写真
▲楢戸のブナ二次林