2026年01月01日

<新年のご挨拶>

 あけましておめでとうございます。本年も只見町ブナセンターをどうぞよろしくお願いいたします。

 今年の干支は午年(うまどし)です。馬に関する只見町の自然と文化について紹介したいと思います。

 只見町の伝統的民家の代表に厩中門造(うまやちゅうもんづくり)の民家があります。母屋に中門とよばれる突出部があり、そこは母屋につながり、厩や便所としての機能があります。平面的に見るとL字型をしたものとなり、“曲がり屋”とも呼ばれます。厩には農作業に使う馬が飼われ、一つの家の中で人も家畜も一緒に暮らしていたわけです。流石に現在は厩に馬は飼われておらず、代わりにトラクターなどの農耕機械が置かれているのを目にします。

 この伝統的民家ですが、多くは新潟から来た大工さんにより作られたようです。構造材はもちろん木材です。この木材に注目して、どのような樹木の木材で作られ、それら樹木は只見の植生とどの様な関係にあったのかを、信州大学教育学部の井田秀行教授らが調べてくれています。その結果、伝統的民家の構造材にはキタゴヨウなど只見地域の山林に自生する樹木が使われ、柱や梁などの部位別に樹木の木材としての特性を踏まえた上で適材適所で使われていることが明らかになっています(Ida et al. 2023)。

厩中門造の伝統的民家とキタゴヨウ林.jpg

 構造材に多く使われていたキタゴヨウは、マツ科マツ属の常緑高木で、只見地域では雪食地形の最上部の痩せ尾根に生育しています。このキタゴヨウの林は痩せ尾根に列状に並んで成立しており、その姿はまるで馬の鬣(たてがみ)のようで、只見地域の景観の大きな特徴ともなっています。一般に針葉樹は、多雪地帯では生育が制限され、発達した森林を作ることが困難とされています。キタゴヨウについても、その生育地は痩せ尾根の岩石部に限られていますが、こうした場所は、風により雪が飛ばされ積雪が少ないため、キタゴヨウにとって好適な立地環境であると考えられています。

集落の背後まで発達する接触地形とモザイク植生.jpg

キタゴヨウの林.jpg

 かつては集落背後のキタゴヨウが伐り出され、その木材が人々の家屋の建築に使われていたわけですね。当たり前といえば当たり前の話かもしれませんが、現代においては、多くの家が外国から運ばれてきた木材で建てられる中、かつては家屋も自給自足でつくられていたということです。それほど、人と森との関係が密接だったのだと思います。

 只見地域の伝統的家屋とキタゴヨウを眺めながら、人と森との関係を考え直してみるのも良いかもしれません。特に、積雪のある今の時期は尾根沿いのキタゴヨウがよく目立ちますので、ぜひ観察してみてください。

尾根に馬の鬣状に並ぶキタゴヨウ_冬は特によく分かる.jpg

 ただみ・ブナと川のミュージアム、ふるさと館田子倉は、1月5日(月)より通常通り開館しております。
 今年も皆様のご来館をお待ちしております。

(参考文献)
Ida H., Sato T., Rikukawa Y., Abe R., Hoyano S., Tsuchimoto T. (2023) Optimizing species selection for the structural timbers of traditional farmhouses in a snowy rural area of northeastern Japan(東北地方の豪雪農村地域における古民家の構造材の最適な樹種選択). Ecological Research 38: 795-808. https://doi.org/10.1111/1440-1703.12408
posted by ブナ at 03:16| ユネスコエコパーク

2025年12月17日

企画展アーカイブ「只見の哺乳動物とその生態」

 只見町ブナセンター付属施設ただみ・ブナと川のミュージアムでは、12月6日(土)より企画展アーカイブ「只見の哺乳動物とその生態」を開催しております。
 只見町には、豪雪の影響を強く受けた雪食地形やブナ林をはじめとした様々な森林群集からなるモザイク植生が発達し、多様で複雑な自然環境が形成されています。また、奥山には原生に近い状態で広大な自然林が残されていることから、多くの野生動物が生息しています。
 野生動物のうち、哺乳類は只見町で 37 種が確認されています。しかし、これらの多くは夜行性あるいは森林性であるため、私たちが直接目にする機会は多くはなく、その生態についてもあまり知られていません。近年では、日本各地において哺乳類による農林業被害や人身被害が発生しており、大きな社会問題となっています。只見町のような山間地域では、野生動物と隣合わせで生活していかねばならず、その生態について知ることが重要です。
 本企画展は、過去に只見町ブナセンターが開催した【企画展(改訂版)】「只見の野生動物とその生態」のアーカイブ展になります。只見町で確認されている哺乳類各種の生態をセンサーカメラが捉えた写真、町民から寄贈された剥製などをまじえて紹介します。

【会期】2025年12月6日(土)〜2026年3月30日(月)
【会場】ただみ・ブナと川のミュージアム 2階ギャラリー

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posted by ブナ at 15:56| 企画展

2025年11月13日

観察会「秋のブナ林観察会〜秋の実りと哺乳類〜」開催報告

 2025年10月26日(日)、新潟大学名誉教授の箕口秀夫博士を迎え、只見町ブナセンター観察会を余名沢の森にて開催しました。雨の中での開催となりましたが、町内外より18名の方にご参加いただきました。

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 今回の観察会では道中、前日に仕掛けておいたシャーマントラップ(小型哺乳類の捕獲用トラップ)の確認を行いました。(注意:ネズミ類の捕獲は県の許可を得て実施しております。)実は、昨年も同様にネズミを観察する観察会を開催しましたが、その時は一匹も捕獲できず観察できずに終ってしました。今回はそのリベンジの観察会でもありました。昨年観察できなかった要因の一つとして、天候がありました。昨年はトラップを仕掛けてから観察会当日まで晴れの天気でした。しかし、ネズミにとっては晴れの日は天敵に狙われやすく行動が活発ではありません。一方、雨などの天気が良くない日は行動が活発になります。今回はトラップを仕掛けてからの天候は雨です。結果はいかに・・・。

 見事、今回はトラップにはアカネズミとヒメネズミが捕獲されておりました!(ネズミさんたちにはだましてごめんなさい。いい迷惑ですね・・・)。箕口博士の解説で、両者の毛の色・耳の形・尾の長さの違いを見比べながら観察することができました。

観察会 (2).jpeg


観察会 (3).jpeg


 さらに、捕獲したネズミを逃がす際は逃げていく場所に注目し、地上で暮らすアカネズミは走って草むらに逃げ込み、樹上で活動することも多いヒメネズミは木を登って逃げていく様子を観察することができました。
 また、遊歩道にはツキノワグマが齧ったと思われる標柱や、ツキノワグマの毛が付着した標柱の破片も見つかり、箕口博士よりツキノワグマの縄張りの主張に関連した行動についての解説も伺うことが出来ました。

 箕口博士、並びにご参加下さった皆様、誠にありがとうございました。
posted by ブナ at 09:53| 自然観察会

講座「どんぐりコロコロどこへ行く〜堅果類の散布様式〜」開催報告

 2025年10月25日(土)、新潟大学名誉教授の箕口秀夫博士を迎え、只見町ブナセンター講座を開催しました。参加者は18人でした。講座の内容は森林と動物の相互関係、特にドングリとネズミの関係を例に動物が森林に与える影響についての話を中心に進みました。

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 冒頭では、ドングリを含む堅果類の特徴を種子の大きさや栄養価の観点から説明いただいたのち、堅果類の防衛戦略(食べられないための戦略)について解説をしていただきました。
 実が大きく、栄養価も高い堅果類はネズミやリス、ツキノワグマなど多くの動物の貴重な食糧になっています。しかし、全ての種子を食べられてしまうと堅果類をつける樹木は世代交代が出来ずに困ってしまいます。そこで、堅果類は動物に食べられないために様々な工夫を身に着けています。例えば、ドングリに含まれるタンニンという物質の存在が挙げられます。ネズミにドングリを餌として与え続けると、普通の飼料を与える場合に比べて死亡率が高くなるという実験結果があるそうです。毒性は低いけれども食べ続けると効いてくる、少しは食べてもらうけど、食べられすぎないようになっているとのことです。
 このように植物側は毒性の獲得により食べられないための戦略を身に着けますが、動物側も毒を無毒化できるよう腸内細菌を獲得するなど適応していきます。箕口博士は今現在も植物と動物の攻防は絶えず続いており、注意深く観察するとその進化・適応の過程を目の当たりにできるかもしれないと仰っていました。

 次に、ドングリの種子散布におけるネズミの役割について、箕口博士の過去に行った研究などをもとに解説をしていただきました。

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 森の中にドングリを用意し、それを自動撮影カメラで観察するとやはりネズミが現れます。しかし、ネズミの多くはドングリをその場で食べることなく、虫食いの有無などを見定めた後、どこかへ運んで行きます。持ち去られたドングリを探すと地面に埋められた状態で発見されます。これはネズミの貯食行動というものです。調査の結果、この貯食行動はネズミの移動性によって特徴が異なることが判明したそうです。
 定住性が強いメスのネズミは、持ち去ったドングリを自分の巣穴など、比較的近く、かつ集中的に、そして比較的深い位置に貯蔵します。一方、移動性の強いオスの場合は、比較的遠くに分散して、比較的浅い位置にドングリを貯蔵します。また、貯蔵された後のドングリを調査すると、定住性が強いメスが持ち去ったものは巣穴の中、もしくは近いところにあるのでたくさん食べられてしまいます。食べ残されたとしても比較的深い位置に埋められているため、発芽できるドングリは少なくなってしまいます。一方、移動性の強いオスが持ち去ったものは分散されているが故に放置される割合が多く、浅い位置に埋められているため発芽率も高くなります。

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 このように、移動性の強いオスのネズミがより効果的にドングリの種子散布の役割を果たしているという結果が明らかになりました。また、植物側の結実の豊凶やタンニンによる毒性などの戦略が、ネズミの一連の行動に少しずつ影響を与えて堅果類とネズミの関係性ができていると箕口博士はご説明されました。
 最後に、箕口博士は森づくりに関してネズミの働きから学ぶことは多い。ドングリとネズミの関係性を通して、今一度ドングリと自分たちとの関係性、そして森づくりについて見つめてもらいたい、と仰っていました。

 箕口先生、貴重なお話をありがとうございました。聴講下さった皆様にも御礼申し上げます。

posted by ブナ at 09:42| ブナセンター講座

2025年10月02日

冬虫夏草

冬虫夏草(とうちゅうかそう)とは、昆虫などにとりついて、その体を栄養源として成長するキノコのことです。世界では500種ほど発見されており、日本ではその内の400種ほど確認されています。昆虫以外には、ダニ、クモの他に、ツチダンゴと呼ばれる地下生菌や植物の実に寄生するものも発見されています。冬虫夏草は湿った環境を好み、梅雨から夏の時期にかけて、渓流沿いの森によく発生します。

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サナギタケ


先日、浅草岳の登山道を歩いているときに、道の脇でオレンジ色のキノコを見つけました。丁寧に掘り出して観察してみると「サナギタケ」という種類の冬虫夏草でした。サナギタケは、主に地中の蛾の蛹から発生する冬虫夏草で、日本各地でよく見られます。サナギタケの子実体(一般に馴染みのある、いわゆるキノコの部分)は鮮やかな色合いで、林内では比較的目立ちます。見つけた個体の周辺をよく探してみると、複数個のサナギタケが見つかりました。

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子実体は1本から複数本まで生じる


また別の日には、家の裏のミョウガ畑の中で、白くなったオオカマキリを発見しました。これも「ボーベリア」という冬虫夏草の一種です。バッタ、カメムシ、チョウ、ハチなど、地面や樹上、葉面にいる様々な昆虫で見られます。ボーベリアは先に紹介したサナギタケとは違い、子実体を形成しません。冬虫夏草には、繁殖の方法が有性生殖と無性生殖のものがあり、それぞれで形態が異なっています。

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オオカマキリ


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全体が白っぽく覆われている


冬虫夏草は奥山だけでなく、意外と身近な場所でも見つけることができます。自然と近い只見町では、日常生活の中で冬虫夏草を見つけることは珍しいことではないのかもしれません。今回採取した個体は、すべて標本にして当館で展示しています。また、その他にも様々な種類の冬虫夏草の標本の展示もあります。ミュージアムにご来館の際は、ぜひ冬虫夏草コーナーをご覧になってください。

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ミュージアム1Fの冬虫夏草コーナー

posted by ブナ at 13:13| できごと